hikari

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2/1/2024, 5:33:17 PM


1/19/2024, 3:44:26 PM

君に会いたくて


会いたい人いたかな、と考えていたら、
はるか昔のことを思い出した。


強烈に残る記憶の一つに、
幼稚園の夏のお祭りで出会った女の子のことを思い出す。

名前もどこの誰で何歳だったかも知らない。

出会ったのは、お寺の部屋の一部を装飾したトンネルが作られた場所だった。なぜお寺かというと、仏教系の幼稚園だったからだ。トンネルは入り口と出口が設けられていて、ダンボールで大きな簡易部屋を作っている感じだったと思う。正直そこはあまり覚えてないけど。
生意気で薄馬鹿だった私は、親の言う事を聞かなかった。見事に入口と出口を勘違いして、出てきた子と衝突し、頭を打って大泣きした。母親が呆れながら私を抱えていたら、私よりすこし背の高いすらっとした女の子が、どこからか現れて私の手を引いた。ショートヘアの、顔の小さい、ピンクの浴衣を着た女の子だった。
「いくよ」とだけ言って、強く私を引っ張った。
え!という母の声と、入り口に立つ大人を放って、私たちはトンネルに入った。
彼女は、少しも立ち止まらず、私の手を握って走っていた。きっとトンネルは、数秒の出来事だった。
だけど、私はさっきの衝突の痛みを忘れて、
キラキラした装飾が綺麗な星空の中にいるような感覚を、スローモーションのように見ていた。その光景は、今でも忘れられないほど胸と目に焼きついた。手を引く女の子の姿も、痛いくらい強く握った手の感覚も、忘れられなかった。そして、それがとても嬉しかったのを覚えている。

その後、女の子がどうだったか全く記憶にないけど、
母親が出口から出てきた私を見て安心していたのは覚えている。

あの衝突の後、悲しい気持ちを一瞬で振り切ってくれた、顔も名前もわからない彼女のことが私はとても好きで、忘れないように何度か思い出している。



2024.1.20 君に会いたくて

これは創作じゃなくて実話を書いてみました。
昔の記憶で飾られてる部分があるかもしれないけど….

1/18/2024, 2:43:17 PM

閉ざされた日記

父が死んで遺言状の封が開かれた。
そこには、当たり障りのない財産の行先が書いてあった。

父が死んでしまった。

死んだ父の日記を読んだのは、相続のためだった。
小さな個人事務所を営んでいた父の手帳には、左ページに経費の記録、右ページに日記があった。

私は二世として田舎にか細く生きる事務所に、ひとりとり残されたのだ。

深夜誰もいない事務所で身の回りの仕事が終わらないなか、父の手帳を手に取った。

ぺらり、ぺらりとめくるたび、
そこには生前の父の記録が残されていた。
内容は、これまた当たり障りのないものだった。

繁忙期にぽくりと死んでしまった父は、
酒好きで楽観的で誰よりも誠実な父親だった。

相続に関する申告の締切はまだ先。
手元には、山ほど仕事がある。

父が死んでも、世の中は特に変わらなかった。
期限も法律も、ニュースも気候も変わらなかった。
地球もそのままだった。
なんの変化もなかった。
手元の手帳しか、今年の父の生きた記録がなかった。
私はそれがとても悲しかった。

私の心だけが、ぽっかりと空虚なままだった。

時が経ち、
父が座っていた、父のデスクにある父の椅子に腰掛け、経費の入力としての役割を終えた手帳を、
鍵のかかった引き出しにしまい込んでいる。




2024.1.18 閉ざされた日記

1/17/2024, 10:30:11 AM

木枯らし

誰に習ったわけでもないのに、
いつの間にか知っている言葉。

寒さや冬といったものは、どこか寂しいものがある。
木枯らしもまた、枯れ葉と共に冷たい風が、孤りの肌に響くような、孤独の寂しさがある。

かといって、日常で木枯らしにそんなことを感じたことは一度もない。

空の高さを感じ、雨が降り、紅葉色の絨毯が歩道に広がって、秋が始まる。そして、身が痺れるような寒い風が冬の訪れを知らせる。澄んだ空気と、日光にキラキラと光る雪が眩しい、明るい冬がやってくる。

木枯らしは、冬を求めるための一工夫だと毎年思う。

ああ寒い、いっそのこと冬が早くこればいいのに、と、一年かけて忘れていた冬の懐かしさを思い出させてくれる。私の木枯らし。

2024.1.17 木枯らし

1/16/2024, 5:24:04 PM

美しいもの。

都会の寂寞のなかで忘れていたもの。

オレンジ色の街灯に照らされて、
音もなく降り積もる雪。

冷たさが肺いっぱいに広がる、澄んだ冬の空気。

晴れた朝に見える、広大な山脈。

あの頃、嫌というほど囲まれた自然から
逃げるように田舎を出たはずだったのに。
この冬、私は懐かしい故郷の美しさに、何も太刀打ちできなかった。


2024.1.16 美しい

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