閉ざされた日記
父が死んで遺言状の封が開かれた。
そこには、当たり障りのない財産の行先が書いてあった。
父が死んでしまった。
死んだ父の日記を読んだのは、相続のためだった。
小さな個人事務所を営んでいた父の手帳には、左ページに経費の記録、右ページに日記があった。
私は二世として田舎にか細く生きる事務所に、ひとりとり残されたのだ。
深夜誰もいない事務所で身の回りの仕事が終わらないなか、父の手帳を手に取った。
ぺらり、ぺらりとめくるたび、
そこには生前の父の記録が残されていた。
内容は、これまた当たり障りのないものだった。
繁忙期にぽくりと死んでしまった父は、
酒好きで楽観的で誰よりも誠実な父親だった。
相続に関する申告の締切はまだ先。
手元には、山ほど仕事がある。
父が死んでも、世の中は特に変わらなかった。
期限も法律も、ニュースも気候も変わらなかった。
地球もそのままだった。
なんの変化もなかった。
手元の手帳しか、今年の父の生きた記録がなかった。
私はそれがとても悲しかった。
私の心だけが、ぽっかりと空虚なままだった。
時が経ち、
父が座っていた、父のデスクにある父の椅子に腰掛け、経費の入力としての役割を終えた手帳を、
鍵のかかった引き出しにしまい込んでいる。
2024.1.18 閉ざされた日記
1/18/2024, 2:43:17 PM