hikari

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1/18/2024, 2:43:17 PM

閉ざされた日記

父が死んで遺言状の封が開かれた。
そこには、当たり障りのない財産の行先が書いてあった。

父が死んでしまった。

死んだ父の日記を読んだのは、相続のためだった。
小さな個人事務所を営んでいた父の手帳には、左ページに経費の記録、右ページに日記があった。

私は二世として田舎にか細く生きる事務所に、ひとりとり残されたのだ。

深夜誰もいない事務所で身の回りの仕事が終わらないなか、父の手帳を手に取った。

ぺらり、ぺらりとめくるたび、
そこには生前の父の記録が残されていた。
内容は、これまた当たり障りのないものだった。

繁忙期にぽくりと死んでしまった父は、
酒好きで楽観的で誰よりも誠実な父親だった。

相続に関する申告の締切はまだ先。
手元には、山ほど仕事がある。

父が死んでも、世の中は特に変わらなかった。
期限も法律も、ニュースも気候も変わらなかった。
地球もそのままだった。
なんの変化もなかった。
手元の手帳しか、今年の父の生きた記録がなかった。
私はそれがとても悲しかった。

私の心だけが、ぽっかりと空虚なままだった。

時が経ち、
父が座っていた、父のデスクにある父の椅子に腰掛け、経費の入力としての役割を終えた手帳を、
鍵のかかった引き出しにしまい込んでいる。




2024.1.18 閉ざされた日記

1/17/2024, 10:30:11 AM

木枯らし

誰に習ったわけでもないのに、
いつの間にか知っている言葉。

寒さや冬といったものは、どこか寂しいものがある。
木枯らしもまた、枯れ葉と共に冷たい風が、孤りの肌に響くような、孤独の寂しさがある。

かといって、日常で木枯らしにそんなことを感じたことは一度もない。

空の高さを感じ、雨が降り、紅葉色の絨毯が歩道に広がって、秋が始まる。そして、身が痺れるような寒い風が冬の訪れを知らせる。澄んだ空気と、日光にキラキラと光る雪が眩しい、明るい冬がやってくる。

木枯らしは、冬を求めるための一工夫だと毎年思う。

ああ寒い、いっそのこと冬が早くこればいいのに、と、一年かけて忘れていた冬の懐かしさを思い出させてくれる。私の木枯らし。

2024.1.17 木枯らし

1/16/2024, 5:24:04 PM

美しいもの。

都会の寂寞のなかで忘れていたもの。

オレンジ色の街灯に照らされて、
音もなく降り積もる雪。

冷たさが肺いっぱいに広がる、澄んだ冬の空気。

晴れた朝に見える、広大な山脈。

あの頃、嫌というほど囲まれた自然から
逃げるように田舎を出たはずだったのに。
この冬、私は懐かしい故郷の美しさに、何も太刀打ちできなかった。


2024.1.16 美しい