きれいに剥けると気持ちがいい
栄養があるとわかっていても
薄皮やスジは取りたくなる
裸のオレンジに心が弾む
半分に分けてから
ひとつずつ口に放る
甘くておいしいな、とか
ちょっと微妙だな、とか
感想を浮かべながらも手は止めない
なくなれば即座に次を手に取り
気づけば夢中になっている
これを「好き」というのかもしれない
~みかん~
最も始まりが穏やかな季節
その瞬間は誰も知らない
「冬になったら」
そう思いながら過ごす夏
やがて夏が終わって
セミも鳴かなくなって
扇風機を使わなくなって
アイスを買う数も減って
押し入れから毛布を引っ張り出して
朝布団から出るのがつらくなって
灯油のにおいが懐かしくて
手袋やマフラーも欲しくなって
こたつが恋しくて
「冬になったな」
今年もわからなかった
~冬になったら~
楽しくもない話をするあなた
わたしは「あはは」と相槌を打つ
楽しかった話をするわたし
あなたは「あはは」と相槌を打った
~あなたとわたし~
布団に入り仰向けになる
そして照明を直視しながらリモコンで消灯する
私は眠る時は真っ暗が好ましいため
照明を見ながら消灯することで手早く視界を暗闇にする
眠いかどうかは瞼の力を抜けばわかる
力を抜いて自然に瞼が閉じれば眠いということである
閉じない時は無理に閉じない方が良い
瞼が疲れて寝づらくなるからだ
わざわざ目を閉じなくとも
暗闇を見ていればいずれは眠りにつくものだ
とはいえ人間には暗順応という機能がある
真っ暗闇にした視界もじきに光が見えてきてしまう
かといい布団に潜るのは細かい埃が心配であるし
アイマスクは紐が煩わしい
そこで私が使うのは黒いタオルだ
暗い色なら良いが黒が最も望ましい
このタオルを折って目の上にかければ暗闇をほぼ維持できる
横向きでは使いづらいのが玉に瑕だが
これなら明るい時間帯でも眠りやすい
まあ
夜には自然に眠くなり自然に早寝できる
そんな生活が送れるのが理想的ではあるのだが……
~眠りにつく前に~
暗い所が好き
というわけではないけれど
陰を見ていると落ち着く
夜空の下
消灯した部屋
瞼の裏
光のある人生を求めてはいても
その実 光はまぶしすぎて
だからかな
嬉しいのに寂しいのは
陰のあるキミも好きだったのに
~暗がりの中で~