何か良い方法はないか
画面に並ぶアルファベットの羅列を眺めながら
私は耽った
あと何日、何ヶ月、何年……
どれくらい貯金ができて何をしてどうする
10年後
20年後(そんなに生きる予定はないが)
分針が1目盛り進んだ
椅子を座り直し片肘を付く
今、秒針が2秒止まった気がした
画面を見てキーボードを叩く
あと何文字打てば未来は来るのだろう
分針が3目盛り
データを書き込んで試しにボタンを押してみる
エラー
考える(40秒)直す(15秒)確認する(5秒)
さて次は――
画面に並ぶアルファベットの羅列を眺めながら
私は耽った
~刹那~
から揚げにかけるレモン
刺し身につける山葵
牛丼にのせる紅生姜
スイカにふる塩
ハンバーガーのピクルス
あった方が良いもの
もしくは、ない方が良いもの
わたしにとっては
ミロのヴィーナスの両腕
~生きる意味~
case 59
「自死の前日、殺人を行ったようだな」
「はい、しかし彼はいたって品行方正で、この時まで悪事を働いたことがないようです。殺人も偶発的なものです」
「うむ、だがいくら事故でも他の者の命を奪った罪は大きい。永遠に地獄を彷徨うが相応しい」
「……は、はい」
「どうした?」
「いえ、何でも……それでは伝えてきます」
case 4
「揉み合いの末突き飛ばされ、頭を打ち死亡か」
「はい、相手方とは数年の付き合いだそうですが、酷く恨まれていたようですね。弱みにつけ込んだ脅迫や恐喝、さらには相手の恋仲である女性と……これ以上はちょっと」
「だが、殺生には至らぬ。今回の件で少しは改めただろう。此奴にはやり直すチャンスをやろう」
「は、はい……伝えてきます」
死者が溢れおざなりになった審判。
私は代わりに処遇を伝えるだけ。
どんなに理不尽で不条理でも。
それが私の役目。
それが私の役目。
それが私の……
~善悪~
またこの時が来てしまった
憂鬱だ
「今期の成就者数は82人です。目安を51%オーバーです」
「また、270万件を超えるクレームが寄せられています」
まいったな……
「大半のクレームは『2回は難しい』です」
仕方がないことだ
テスト運用で1回にしたら大赤字になったのだから
「次に多いクレームは『時間が短すぎる』です」
遅いと2回でも簡単になってしまう
速度を出すのもコストがかかるが致し方ないのだ
「直ちに改善策を講じてください」
成就者を減らして、クレームも減らせと?
上のものは平気で無理を言ってくる
そもそも私はこんな無茶なサービスは反対だったのだ
「では、来期からは3回で成就とし、
成就者数を見て適宜速度の調整を図ります」
不毛な拘束時間が終わり
私は外に出てその辺の柵に寄りかかる
はぁ、と嘆息すると上を見上げ、そして呟いた
「早く終わらないかなー、願いを叶えるサービス」
空には絶え間なく星が降り注いでいた
~流れ星に願いを~
この村のどこかにあるという財宝を求めて
私は一人はるばるやってきた
「村の外れの森にある洞窟には絶対に入ってはいけない」
数日滞在する旨を伝えると
村の長にそう忠告された
複雑な迷路になっていて出て来られなくなるだとか
さらには恐ろしい怪物が潜んでいるだとか
いかにも胡散臭いことを言っていた
活気がまるでなく風が吹けば飛んでいきそうな村だ
洞窟について村民へ情報を伺う
噂によると
道を間違えなければ帰って来られるそうだが定かではなく
そもそも怪物を恐れて誰も立ち寄らないらしい
私は道具屋でロープを買い占めた
崩れ落ちそうな店でロープもボロボロだったが問題は無い
すぐに自前のランプを持って洞窟へ向かった
買ったロープを繋ぎ合わせて近くの木に結び
もう片端を体に結んだ
聞いたとおり洞窟の中は複雑に入り組んでいて
ロープがなければ脱出は困難だろう
柔らかい土の感触を得ながらいくつもの分かれ道を進み
しばらくして行き止まりにたどり着いた
地面に散らばっているものを照らした瞬間
頭に強い衝撃を受けて私は倒れた
この村に来たことを後悔した
ここには怪物しかいない
意識が遠のき
おびただしい数の骸の中で私は眠りについた
~ルール~