あのひと
あたしの彼なんだけど
よく寝言をいうひとでさ
いらっしゃいませ とか
コロッケでいい とか
変な寝言よく言ってたの
このまえ
また寝言言ってるから
もお〜って思ったんだけど
なんか小声なのね
だから口元に近づいて
聞いてみたの
落ちていく
朽ちていく
満ちていく
って繰り返してて
はあ〜?って思ってたんだけど
このことだったのかなあ
うちら
この穴に落ちてどのくらい経つのかな
彼の実家が神社だっていうから
ついてこなければよかったよお
あんな大きな木があって
あんな大きなウロがあったら
思わず覗いちゃうじゃんねえ
そしたら
背中を押して落とすなんて
絶対許さないんだから
でもさあ
この穴から出られるのかなあ
ってあたし
さっきから知らない骨に話しかけて
何してんだろ
あたしもこうやって
朽ちていくのかな
彼きっと迎えにくるよね
あ 満月が見える
早く迎えにきてよお
気がついたら
左手の薬指の腹側に
ちいさな
くちびるがあった
いつからそこにあったのか
なぜそこにあるのか
全くわからないまま
先月結婚したので
結婚指輪をしているのだけれど
指輪をしていると
くちびるがモゴモゴと苦しそうで
指輪をはずした
すぐに夫にそれがばれて
夫婦なのに、 と言われてしまった
今日また指輪をつけようとすると
くちびるは私に
夫婦とはなんぞやを語ってきた
五月蝿かったが
指輪をはめると
くちびるはまた
モゴモゴと話せなくなった
もう2度と外すまい
夫婦でなくなるその日まで
夫婦なぞ
語れるものではないのだから
ぼくのたからもの
ぼくのたからものは
おかあさんのふく
おかあさんのかばん
おかあさんのバレッタ
おかあさんのかみのけ
おかあさんのは
おかあさんのゆび
おかあさんのあたま
おかあさんのからだ
おとうとができるっていうから
はらがたって
すこしわなをかけたら
おかあさん
ふたつにわかれちゃった
おかあさんとぼくは
ふたりでくらしてるから
だれもしらない
さいきんすこしにおうよ
でもぼくのたからもの
おとうとなんかいらない
おかあさんはだれにもあげない
だってぼくのたからもの
おかあさん
ふゆになったら
とうみんしよう
たくさんきこんで
たくさんためて
たくさんそなえて
すきなものだけ
へやのなかにあつめて
すきなひとだけ
へやにしょうたいして
すきなことだけ
あきるまでやろう
いまめのまえで
おきているげんじつが
どうか ゆめでありますように
とうみんからさめたら
ぜんぶゆめだった
ああよかったな
っておもえますように
あれはもうてにはいらないし
あのひとにはもうあえないし
あのことはもうできない
そんなの ゆめでありますように
せかいでせんそうがおきていて
きょうもつらいニュースがながれ
だれかがないている
そんなの ゆめでありますように
ふゆになったら
とうみんしよう
めがさめたら
すべてゆめだったと
おもえるように
ゆうがた
5時になると
二階のベランダから
空が飛べないか
いつも考えていた
小学生の私には
友達はほとんどいなかったし
両親も共働きでいなかった
わたしのけんこうこつには
ほんのすこし突起があって
何かの拍子に
翼になるんじゃないかな
とおもっていた
もしかして
ここから飛びおりたら
飛べるようになるんじゃないかって
でも
しんじゃうかもしれないなって
迷っていた
あれから何十年も経って
ともだちも出来た
いろんな恋をした
やりたかった職についた
けんこうこつの突起も
なくなってしまった
でも
やっぱり
もしかして 飛べるんじゃないかって
いまだに考える
まだ試してはないけれど
ここに書いた文章は
ほんとうのも
まるきりうそのも
ほんとうと うそのも
あります
いつも読んでくれて
ありがとう
スマホをみてる
そこのあなたへ
飛べない翼をもつ
わたしより