月夜
「待ってよ」
帰ろうと歩き出した私の背中に崇が声をかけた。
「なに?」
振り返らずに答える。
私、坂田清香と相田崇は高校の同級生で3年前のクラス会で再開してから、会うようになり2年前から付き合う様になっていた。
今日は映画に行った帰り道に、どっちの家に行くのかと言う話から、1週間分の洗濯物がそのまま残っていると崇が言い出し、やって欲しそうなニュアンスに辟易してしまい、「帰るね」と言って背中を向けたところだった。
「なにって…怒ってるのか?」
崇が恐る恐る尋ねた。
「どうしてそう思うの?」
「だって、そんな顔をしてる」
私はたまらず振り向いて
「そんな顔って何よ」
と言うと、崇は
「ほら、怒ってる」
と言った。
「顔で怒ってるかを確認してるの?」
自分でも勝手な事を言っているのは分かっているが、崇にはそんな私の事も分かって欲しいと思ってしまうのだ。
「もぉ」
崇はそう言いながら、私の右手を軽く引っ張り、よろけて転びそうになる私をそのまま抱きしめた。
「え?なに?」
「俺の洗濯物は俺がやるんだよ。それでうんざりしてるんだろ?」
続けて
「嫌な事は言って行こうよ、お互いに」
と言った。
その瞬間、分かってくれていた安心感と同時に恥ずかしさが私を襲い、不覚にも涙が溢れてしまった。涙を止めようとすればする程止まらなくなり、崇の胸に顔を埋めて子供よ様に泣きじゃくってしまう。
「うん、うん」
と、分かった様に言いながら私の背中を左手でトントンする崇。
何だよ、ムカつく
声にならない声で吐き捨てながら、顔を上げると、崇の肩越しにまん丸なお月様が「ほらね」と言う様に笑っていた。
ひなまつり
三人官女の左側の人が好きで、人形遊びの様に遊んで怒られていました。
それでもめげず、年に一度の楽しみになっていたのを思い出します。
次に思い出すのは、雛壇で笑っていたあなたの顔。
慣れないお酒を飲まされて、真っ赤な顔をして少しだらしなく笑っていた顔。
あの時、私はどんな顔をしていたんでしょうか。
それから、あの娘の初節句。
団地サイズの小さな雛人形の前で、泣きじゃくっていました。
雛人形と娘の泣き顔のギャップが可愛くて、ずっとずっと家族全員が笑顔だった1日でした。
そんなひなまつりの想い出です。
小さな命
そう、決心した筈
だって、あの人とは別れたし
ひとりでも生活出来ないし
もう…
ごめんね、ごめんなさい
無理なんです
私が悪いし
悪いし…悪い
決心が揺らぐ瞬間を何度も乗り越えて、やっと出した答えだった
そしてその瞬間は
呆気ない程すぐ終わった
そして命は
いなくなってしまった
love you
「何でそんなに見るの?」
唐突に彼女は言った。
「ん?」
「そんなに見てた?」
とぼけて言うと
「見惚れてたんでしょ?」
と彼女は目を細めて、いたずらっ子の様に笑った。