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月夜

「待ってよ」
帰ろうと歩き出した私の背中に崇が声をかけた。
「なに?」
振り返らずに答える。

私、坂田清香と相田崇は高校の同級生で3年前のクラス会で再開してから、会うようになり2年前から付き合う様になっていた。
今日は映画に行った帰り道に、どっちの家に行くのかと言う話から、1週間分の洗濯物がそのまま残っていると崇が言い出し、やって欲しそうなニュアンスに辟易してしまい、「帰るね」と言って背中を向けたところだった。

「なにって…怒ってるのか?」
崇が恐る恐る尋ねた。
「どうしてそう思うの?」
「だって、そんな顔をしてる」
私はたまらず振り向いて
「そんな顔って何よ」
と言うと、崇は
「ほら、怒ってる」
と言った。
「顔で怒ってるかを確認してるの?」
自分でも勝手な事を言っているのは分かっているが、崇にはそんな私の事も分かって欲しいと思ってしまうのだ。

「もぉ」
崇はそう言いながら、私の右手を軽く引っ張り、よろけて転びそうになる私をそのまま抱きしめた。
「え?なに?」
「俺の洗濯物は俺がやるんだよ。それでうんざりしてるんだろ?」
続けて
「嫌な事は言って行こうよ、お互いに」
と言った。

その瞬間、分かってくれていた安心感と同時に恥ずかしさが私を襲い、不覚にも涙が溢れてしまった。涙を止めようとすればする程止まらなくなり、崇の胸に顔を埋めて子供よ様に泣きじゃくってしまう。
「うん、うん」
と、分かった様に言いながら私の背中を左手でトントンする崇。
何だよ、ムカつく
声にならない声で吐き捨てながら、顔を上げると、崇の肩越しにまん丸なお月様が「ほらね」と言う様に笑っていた。

3/8/2026, 3:01:46 AM