#香水
「コイツ贅沢だからよぉ」
一瞬受けた衝撃を辛うじて口を数ミリ引き攣らせただけで済んだのは今までの経験の賜物とも言える。
笑わせてくれる
なら、代わってやろうか。
お前の人生と俺の人生。
どっちが上手く生きられると思う
友達だと思っていた男だったが、腹の底では俺をそう思っていた訳だ。
贅沢だって?
俺の人生が?
そうかよ。
「昨日、お前の香水と同じ値段のうんこ踏んだわ。」
「は?何だよ」
「ペットショップの犬が幾らか知ってるか?そいつらを日割りして更に1日のうんこの回数を平均して計算すると。お前がずーっと使ってるその安物臭い香水と同じ値段になるんだぜ。」
よかったなぁ。
背中をバシバシ叩いてやると、別の奴が腹を抱えて爆笑し始めた。
辞めだな
今日でコイツらと連むのも終いだ。
「あー…あ。つまんね。」
安い香水の匂いが鼻にこびりついて取れねぇ
なぁ、俺のお姫様はどこ?
俺の事を大好きな子ってどうやって会えんの。
なぁ、お姫様。
お前は俺の人生を贅沢だって笑うか
それとも、頑張ったねって慰めてくれる?
どっかに落ちて来ねぇかな、俺のお姫様。
「あ、あのっ!すみませんっ!」
「ん?あ、俺か。何」
「足、退けてくださいっ!」
「あ?なんで?」
「踏んでますっ!わ、私の推しを踏んでますっ!」
見ると残念な事に俺の靴跡がはっきり付いたキラキラのカードが。
ん?どっかで見たなこれ。
「お。やっぱり有った。ね、ごめん。お詫びにコレ貰ってくんね。」
財布から同じキャラの別のカードを抜く。
コイツ俺の推しじゃないんだけどさ、レアカなんだよな。捨てらんねーじゃん。
「えっっ!!?」
「俺、青髪の方狙ってたんだけどダメだったんだよね。」
「レオ君推しなんですかっ!?」
「うん。かっけーじゃん。」
「私っ、レオ君の前バージョン持ってます!要りますか!?」
「まじ、?要るっいるいるいるっ!くれんの?」
「ぜひっ。」
#だから、一人でいたい。
反撃する、というのは。
反撃出来るような準備が整っていないと、実行出来ない。
無鉄砲に出る勢いが有るならまだ良い。
無抵抗に浴び続ける攻撃に、打ちのめされた心で反撃など不可能だ。
少しずつ
手のひら分、いいや、米粒分、いいやまだだ。
砂粒程の理性を取り戻せ。
攻撃される謂れは無い筈だ。
そう思うだろ。
その根拠を探せ。
よく探せ、言葉にしろ。
言い返してくるその攻撃は、意味を成しているのか考えろ。
耐えろ
好機を待て
砂粒を拾い続けろ
理性と脳味噌を動かし続けろ
不利な条件を潰せ
時間か身長か腕力か
傷口を洗え、包帯を巻け、癒える間も考え続けろ
化け物の巣窟で
味方は会った事もない詩人の言葉
「これで、いい」
一人で、良いんだ
そうじゃなかったら、こんなの耐えられない
#嵐が来ようとも
打ち付けた杭が抜けなければ
何も問題は無い
張ったテントがバサバサ音を立てて揺れようと
轟々と騒ぎ立てる風の音がしようとも
確かに1本打ち付けた
ああでも
有れば有るだけ言い
4本でも5本でも
雨風にも負けない1本を打ち付ける事
槌ならもう持ってる
「さぁ。振り上げて根まで。」
#鳥かご
「いいえ。」
閉じ込めているのではないのよ
危険なの
守っているの
傷付かないでほしいのです
此処に居てはくださいませんか
「ううん。嫌だ。外に行きたい。」
例えば転んでも
痛くても
刃物が飛んでくる事だってあるのですよ
それでも行くの
「行く。行くよ。僕を閉じ込めないで。」
でも。
今まで
守ってくれてありがとう。
ーーーと、思っていた。
現実を知るとそれどころでは無い、事を思い知った。
守っている、とはつまり。
理想のままで居させる、と言う事だった。
何も知らない 何も分からない 何も答えない
ふわっとした
そこに只存在するだけの"僕"が欲しかったんだ。
絶望感が押し寄せる。
守ってくれてありがとう?
いいや、違う…僕を見なかったなっ、あんた。
僕は
僕の個性を、僕の言葉を、僕の思考を
知らずにここまで来た。
外の世界で、そんは奴は居ない。
僕は
僕の個性は何で
僕の言葉は何を使って
僕の思考を形作るのか、
「あぁっ、」
脳が、焼き切れそうだーーっ、
「僕は鳥かごをねじ切りたいっ、」
#もしもタイムマシンがあったなら
給料日前の銀行の金庫に忍び込んで、諭吉を袋いっぱい詰め込んで戻ってくる。
①あっ、あのっ、ちょっ、防犯カメラがあるんですかっ、そんなっ、ちょっとした出来心でっ、
②待って、手袋と覆面とでっかい袋買ってくる
あっ、レシートください。
③透明マントとか無いんですかっ、ええっ、なんで無いの、これじゃ只の盗人じゃん。
④大人しく観光でもしますか