【勝ち負けなんて】
憧れの先輩にリストバンドをくださいって
言いなよ え、やだ、あなたが言いなよ
なんてやってる友人たちを横目に、
ひとりで「ください」と言いに行って
もらったリストバンドをその友人たちに自慢するタイプだった
と、姉が話したことがある
【さらさら】
流れる、流れる
右から左
ひとりの時間、夜空にちいさく星がまたたく
世界からはみ出したような、取り残されたような、それでいて一部になったような、全部を覆うような、
妙な一体感と疎外感
楽しく笑いながら、テーブルの下では指のさかむけをはじいている
流れる、流れる
あぁ、ひとの言葉ってすごいな
むくむくとわき起こるこの、目が覚めるかんじ
【記憶の海】
おじいちゃんが転んで骨折したのは何年だったかな。
とか言って、スマホの検索アプリを開きかけて、
我に返って閉じる。
Googleさんが知ってるわけなかろうて。
【ただきみだけ】
公園がすこし赤く染まる時刻
あのグラウンドでボールを蹴っているはずの
君の汗と砂埃を思う
指示の声、ふざける笑い声、
リラックスした帰り道
笑っている君の足取りは、軽いだろうか
同級生と渡り廊下で
好きな男の子の話をした30年前の夕焼け
青から赤に変わる、でも決して混ざらない、
その美しいグラデーションを
今でもはっきりと思い出せる
君もいつか思い出すのだろうか
夕暮れのにおい、風、空の色
友だちの声、ひとりの帰り道、ブランコの軋む音
電車の音、僕を呼ぶ声
思い出すといいな
いつもこの広い空が、君の上に広がるといいな
【夢を描け】
夢なんて見るもんじゃない
語るもんじゃない
叶えるものだから
なんて歌詞に、
当時の私がどれだけ脅かされたことか
そう生きられる誰かがうらやましく
同時にそうじゃない自分がうしろめたく
苦笑いしてたっけ
夢を描け
誰も口にしたことのない価値観、
言ったもん勝ちのパワーワードに流されるな
たくさん夢を描け、山ほど描けばいい
山積みの夢を見上げて途方に暮れた時、
道が見えるのだから