【ただひとりのきみへ】
久しぶりにコーヒーショップに入った。
テイクアウトして外に出かけたくなるくらいの晴天だ。
雪崩に注意なんてニュースでも言われていた。それくらい気温も高い。春がきたみたいだ。
平日の午前中にこの店に来ることはあまりないけれど、たまたま用事を済ませたあとに通りかかったら思いの外空いていたから、迷いなく立ち寄った。
ブラックは飲めないから、いつ来てもカフェオレだ。
何かに追われていたり、何かに罪悪感を持っていたり、はたまた何かに迷っていたり、何かを欲していたり、焦燥感を自覚していたり。
そういう心の騒がしさも楽しいけれど、
ここ最近自由になっている。理由はわかっている。
誰にも媚びない、無理して合わせない、自分の見たものを信じる、そのあとただしく判断する。
数年前にそんなことを誓って、いっときは「友人」がずいぶん減った。私は頑固なのだ。
へそ曲がりとか気難しいとか身勝手とか付き合い悪いとか…思われてんねやろな。
大切にしたいひとだと気づくまで数年かかったり、自分の至らなさに気づいて反省したり、
そんなこんなで、大切にしたいひと、大切にしてくれるひとが絞られてきた。私は義理堅いのだ。
あぁー、自由だ。
なんて心地いいんだろう。
誰かのなかにある私のすがたに、私は責任をとらなくていい。
カフェオレが冷めてきた。
飲み干したら書店に寄ろう。
【風のいたずら】
ずるい、少年みたいなひとだった
くやしくて、真意が知りたくて追いかければ、
どこまでもすばやく逃げてしまう
いしし,と笑いながら
本音をちらりと見せてまた誘う
それがあなただった
二度と会うことのないあなた
わたしをすきだっていったくせに
それも冗談だったの
あわよくば本音に聞こえるといいなとか?
逃げるなんてずるい
二度と会うことはないわ、あなた
【透明ななみだ】
毎日いろいろなことを考えるけれど
その部分をとても素敵だと言ってくれるのは
思慮深く、嘘がない、
とても好ましいと言ってくれるのは
あなたとあなただけです
【あなたのもとへ】
手紙を書く
なんでもない日常、
言葉にしないと消えていく毎日を
あなたに宛てて記していく
からすの楽しそうな鳴き声
雨の日に水びたしになる公園
あの子の可笑しい毎日
読んできっとほほ笑むひと
あなたの代わりをつくってしまわないように
細心の注意をはらう
とどけ、空のむこうへ
どうか、見ていますように
そしていまも私は
あなたの知っている私だろうか
【そっと】
眠っているうさぎの鼻にさわる
水面に触れる
子どもの布団をかけ直す
きみのまつ毛を見つめる
ドアをしめる
涙をぬぐう
繊細なところ、敏感なところ
驚かせないように
怖がらせないように
痛くないように
そっと、そっと