【透明ななみだ】
毎日いろいろなことを考えるけれど
その部分をとても素敵だと言ってくれるのは
思慮深く、嘘がない、
とても好ましいと言ってくれるのは
あなたとあなただけです
【あなたのもとへ】
手紙を書く
なんでもない日常、
言葉にしないと消えていく毎日を
あなたに宛てて記していく
からすの楽しそうな鳴き声
雨の日に水びたしになる公園
あの子の可笑しい毎日
読んできっとほほ笑むひと
あなたの代わりをつくってしまわないように
細心の注意をはらう
とどけ、空のむこうへ
どうか、見ていますように
そしていまも私は
あなたの知っている私だろうか
【そっと】
眠っているうさぎの鼻にさわる
水面に触れる
子どもの布団をかけ直す
きみのまつ毛を見つめる
ドアをしめる
涙をぬぐう
繊細なところ、敏感なところ
驚かせないように
怖がらせないように
痛くないように
そっと、そっと
【まだ見ぬ景色】
人との出会いはそういうものだと、
最近やっとわかった
もっと大きくいえば、人生ってそういうものだと
誰も彼もそんなふうに語っていたし、
世間も歌っていたし、説いていたけど
やっぱ自分で経験しないことには
そんで経験したあとで言えることは
やっぱりそんなかんじになるんだなって
常套句って、すごいな
きっとその言葉から想像するほどいいものではないけど、警戒するほど悪くもないよ
きっとぶあつい壁を通るあいだにも、ちょっと
怖気づくほどの景色があるけど
それもおそらくまた初めて見る景色で
そこまで行っても、具体的ななにかを
まだ見ぬ景色の完成形として描くなら、
会いたい景色がはっきりとあるのなら、
それに出会うまで行こうか、どこまでも
【星のかけら】
没入体験というのが、いっとき話題でしたね
今もでしょうか 恥ずかしながら流行には疎くて
小学校のグラウンドに寝転んで、夜空を眺めたことがあります
田舎なので街のあかりはほとんどなく、
住宅のあかりだけが眼下にちらちらと見える程度
よく晴れた夏の夜でした
流星群が見られるというので、知人と、いくつかの人影にまぎれてやって来たのです
見上げた空間に無数の光る点々
大きいもの、小さいもの、集まって大きく見えるもの、ぼんやり雲のように光るもの
夜空という天井にそれらが貼り付いているわけではないことを、大人である私は知っていました
ずっとずっと遠く、気が遠くなるほど遠くに、あの点はある、こんなにもたくさん
永遠に手が届かない場所、巨大な恒星、
暗闇の中でそんな途方もない事実に思いを馳せると、
まるで空に落ちていくようでした
寝転んでいたので、足の裏が地面から離れていたからでしょうね
でもあれは、浪漫とかではなく、恐怖です
もちろん没入でもない
小さすぎる自分とこの星の歴史を想像して、
漠然とした、それでいて深い、逃げられない大きな静寂に慄きました
まだその事実を知らない我が子が、羨ましくなりました