【微熱】
天井の格子模様がおちてくる
なにかが目の前に迫って息ぐるしくなる
夜中にそれがくると、いそいで枕元の電気をつけて
枕元に置いている無邪気な少年漫画を開いた
当時の私の枕カバーを外すと涙のあとが染みになっていて
ひとりで泣く娘を思ってこころが痛んだと母が言った
私はあわてて、よだれだったんじゃないかと笑った
母はそれを信じたのか、安堵していたし
隣で会話を聞いていた姉は自分のほうが泣いていたのに心配されないと憤った
私はひとりで泣く子どもだった
大好きな家族のだれひとり、私のせいで悲しませたりしない
どうしてなんだろう
微熱のように恍惚とした陽炎
あれはいつだったか、遠くに揺れて人影が笑う
【太陽の下で】
「脛かじって荒れておまわりの世話になって親泣かせたけど本気出したら東大受かったみたいな本あるやん、あれな、そんなもん、ずっと真面目にやってきてな、親に心配かけんかったやつのほうがエラいに決まっとーやんなぁ?めっちゃすごいと思わん?なぁ?」
と
煙草の煙を吐きながら太陽の下で笑ったひと
【落ちていく】
飛んでいく風船から見たら、落ちていくのは私かも
よく迷子になる子は「ママはよく迷子になる」って言うんだってさ
落ちていく
マーブル模様の空に落ちていく
踊り抜けたら私ゼブラ柄になっているかも
ドット柄でもいいよ
ちょっときもちわるいけど
それも可笑しくておもしろい気もする
【夫婦】
私の母は、夫である私の父を、おそらく、
とても愛していて、とても信頼していて、
とても侮っていて、とても可愛がっていて、
とても愛されたいと思っていて、とても寂しかったと思う
私の父は、妻である私の母を、おそらく、
とても愛していて、とても大切にしていて、
とても不信感をもっていて、とても煩わしがっていて
とても愛したいと思っていて、とても孤独だったと思う
若いころ誰かが言っていた
「すこし前はこっちが冷めてたけど、今はあっちが冷めてる」
「交互なんですね」と笑うと「揃ってしまうと終わるでしょ」と苦笑いしていた
そんなものなのかなと思った
いつまでも男女として愛し合える夫婦関係?
セックスレスはマズい、なんて言われているけど
恋人から、いつしか友人になり、親友になり、同志になり、リラックスできる生活の大切な存在になり
気づけば自分のからだの一部のようになって、
うんざりしたり腹を立てたり、可笑しくて笑ったり、
そしてそこに、性を超えた人生を認め合える、
ほんとうはそういうのがみんなの理想なんじゃないかな
ちがうのかな 私はそうだな
【どうすればいいの】
自分ではどうしようもないことって、あるんだよ。
あなたが頑張っても、変えられないことはある。
何度かチャレンジしてみていい。それでも変わらないなら、その時は勇気を持って手を離すんだよ。
そのうち、何かの力によってあるべき状態に向かって進んでいくから。
ほんとうにそう、あるべき場所に向かって進んでいくから。