【もうひとつの物語】
もしあっちを選んでいたら、
もしあっちを選んでしまっていたら、
って思う時に、
むくむくとわきおこるストーリーがあるよね
あの手を離してしまっていたらと想像してゾッとしたり
目を逸らさずにいたら今ごろひょっとしたらと後悔したり
あの電車に間に合ってさえいればと嘆いたり
そうだ、あの時それで気づいたんだ
今日の最善の選択が、明日の自分の道をつくる
明日の自分が、今日の選択を最善にする
もうひとつの世界に、いつもはげまされてるって
【どこまでもつづく青い空】
見える限りずっとずっと奥まで、ずっと青い空
まだほんの幼児の頃、父に連れられて
丘の上から飛行機を飛ばした
当時流行していた大きな木のラジコン機
さすがに上空で乗ることはできなかったけれど、
地上でまたがることくらいはできる大きさだった
丘の上からの景色は、今はもうない、おそらく
眼下には刈取の終わった田んぼがひろがる
思い出すたびに丘は高くなるようだ
嬉々として飛ばされた機体は、吹き上げる初秋の風に煽られ、頼りなく回転しながら
田んぼの土の上に容赦なく墜落した
そしてぽっきりと右翼が損壊した
その田んぼがどこの誰の持ち物だったのか、
あの丘はどこの丘なのか、
あの空はどこで見たのだったか、
夢の話なのか、想像の話なのか、
薄い水色の空がずうっと向こうまで続いている
【衣替え】
白いシャツが黒い詰襟に変わる日を忘れられない
禁欲的なその佇まいはうっとりするほど美しくて
自分は永遠に着られないその上着の下の体温に憧れた
あなたほど、詰襟の似合うひとはいなかった
あなたのようになりたかった
凛として寡黙で、時々子どものように無邪気に笑う
【秋晴れ】
小鳥のさえずりが響く
声のしたほうに、その姿を探す
窓から見える公園の木々は、もう初秋だというのにまだまだ元気いっぱいだ
四方にのびた枝をおおっている艶のある深緑の葉が、
かわいた風にざわざわと揺れる
葉っぱの色のうすいところがきらきら光って、初夏みたいだなと思う
その大きなクスノキの枝のなかで、小鳥が鳴いているみたいだ
ここから見る景色がすきだった
なんていい気分なんだろう
こんなに心が軽いのはひさしぶりだ
【忘れたくても忘れられない】
覚えていたくても覚えていられない
システムの内容も、受診の日時も、聞きたいことも
あかんなぁ
忘れるためには、思い出さないことが大切なんだとか
思い出しそうになったら、そのキッカケをぷつっと切る
覚えるためには、その逆?
「そのロジックは組んでないから」とか言ってたな?
なかなかむずかしいな、
興味のないことを思い出そうとするのは