【私の日記帳】
10代の頃、日記を書いていた
日記は2冊目あたりまで「日記帳」の形をしていたけれど、そのうちありきたりな罫線ノートに変わった
日記は時々詩になり、散文になり、感想文になり
そうしている間にノートはパソコンに変わった
物語になり、エッセイになり、また日記になり、
そのうち、ふと思いを綴る媒体はスマートフォンになった
誰にも言わない自分だけの世界、価値観、かなしみ、よろこび、視点
当時、私の日記を母が読んでいたと知ったのは去年のことだ
家族から自分の受けた傷は私にも等しく受ける責任があると思い込んでいる姉が、
事もなげに笑いながら教えてくれた
なるほど、だからこのひとは我が子に同じことをするのだろう
母は12年前に他界した
私への深い愛情と興味と疑問を持っていた母に宛てて、
私は時々手紙を書く
便箋だったり、心の中だったり、いろいろだけれど
あのひとは文章を読むことが好きだから丁寧に
日記帳も母も、もう手元にはないのだから
けれど確かに見える気がする
こっそりと隠れて日記帳を広げる母の横顔が
そしてその口元はすこし笑っているのだ
【向かい合わせ】
イヤなやつ きらい!
ってハッキリ言えないほどの、ほんのり香る出汁のような絶妙なさじ加減のイヤさを感じ取って、あの子は私を警戒しつつも好きでいてくれて、適度な距離を保ちながら付き合ってくれてて、
ああイイ子だなぁと思うのだ
そういうのは全て、鏡だなぁとも思うのだ
みんなそうだ、
勝手に良い人と判断して、勝手に優しいと判断して、
勝手にガッカリして、勝手に離れていくのだ
そんなもんです、心配いらない
自分から好きだと感じる相手しか好きにならない
それもまた、人生の芳醇な段階には必要なスキル
【やるせない気持ち】
おもしろいと思ったことのおもしろさをうまく伝えられない(生もの)
「揚げ足を取らないで」と嗜められる(ごめん)
息子へのお説教を夫が粛々と聞いている(納得すんな)
それさっき私が言ったやつ(聞いてる?)
昨日私が説明した時はちっとも納得せんかったやん(信用の問題)
友だちが言ったら笑いになるのに私が言ったら無言になる(おもんない?)
やっと得点、と思ったらオフサイド(ほんまに?今のほんまに??)
たまたま隣にすわったよそのパパと会話が盛り上がらない(いや、席おかしいやん)
きゅうに褒められる(喜んじゃうのよ)
「料理とか編み物とか好きそうなのにね」(知らんがな)
…
やるせなし
【海へ】
後にも先にも動けない感情にがんじがらめになって
高速道路の外灯も、遠くに見える海も、すべてひとごとだった日々
何の思い入れもなく、何も経験していない
たった数年だったはずなのにとても永く、とても重い
私はちゃんと笑えていただろうか
いいえ、もう忘れましょう、
通り過ぎた踊り場には戻れません
どうせ戻る気もないのだから
記憶から消してしまいたい、
でも、一度知ってしまったら知り直すことはできない
だから更新していくのです
【裏返し】
サイズも形も違和感がないから、案外気づかないのが裏返しです
きれいに裏返っているほど気づかないもの
整えたりしちゃえばなおさら、もうどっちがオモテかわかりません
オモテとはなにか裏とはなにかをきちんと意識しておかないとなりません