【今一番欲しい物】
片想いばかりの半生だった
私たち親友だよね、あるいは
あの子たちいつもいっしょだよね、と
思春期も、青年期も、この歳になっても
まだやってるのだなと気づくことがある
そういえば、私がそうでありたい子はいつも、
ほかのだれかとそうであった
友情だけじゃなく、恋も
私のウィットや、情の深さや、お茶目さも
悪くないと思うんだけどな
階段をすこしずつのぼれば、
そういう景色も変わって見えるのだと思っていた、
まだ先が見えない頃は
けれど私のうしろに階段はできあがらなくて
ふりかえると、開いて通ってきたいくつかの扉
扉のずっとはるかむこうに、いつかの自分が見える
あの頃の自分がなつかしい
スネた顔していじけてる、白い腕、懸命な汗
なんてかわいいんだろう
今度は自分に片想い
この片想いは、なかなかいいかもしれないな
【私の名前】
姓は公のものだけど、名は私的なもの
人の名に使われている漢字を見た時、
そのひとの背景を知ったような気がしてしまう
ご家族が選んだのであろうその名前、その漢字
優雅な響き 柔和な印象 軽やか 真面目
意志が強そうだ 歯切れがいいな
私の名前はどんな印象をあたえるんだろう
SNSに流れてくる嫌なまんがに、同じ名前を見た
嫌なやつが同じ名前だったら悲しくなるよね
【私だけ】
おぼえてる
泣いている
笑っている
飛び跳ねる
見えない
は、わかる
の時間
のとくべつ
のひみつ
【遠い日の記憶】
街なかで君の香りがしたよ
思わず振り返ったけど、べつのひとだった
とあなたが笑ったのを思い出しながら香水を振る
【空を見上げて心に浮かんだこと】
夜空を横切っていく白い巨人
月の光でぼんやり浮き上がって、
まるでその羽衣で町をつつむみたいに
微笑みをはりつけたまま上空を通っていく
朝焼けの空はどこまでもつづく
追ってくる太陽からにげるようにして飛行機は飛ぶ
紺色から緋色に美しいグラデーションをつくって
ほら、もう朝が来るんだね
夕焼けのずっと向こうには彼の国があるって、
昔だれかが教えてくれた
あなたが夕暮れ時を怖がった理由を
私はいまも考え続けている
どうして空が青く見えるのか、
大気のベールを通した宇宙の色だとか
太陽の光に隠された闇の色だとか
それでもずっと解けないでいる、青の秘密
この空はあなたの上にもひろがっている
はるか彼方であなたが生きている
どこかに君を隠している、ぼくの花を隠している、
だからこの空にあこがれる
いつか、あなたに会えるといい