【すきな色】
すきな色
晴れた日の夕暮れの白くなっていく空
朝日ののぼってくる山の稜線
空の青を吸い込んだような葉っぱの緑
実はすこし茶色いあなたの瞳
君の腕の焼けたとこと焼けてないとこの境目
誰かのしあわせに思いを馳せる深夜の空の紫
部屋の隅をぼんやり灯すあたたかな橙
ガラスの花びんが西陽をうけてテーブルに落とす青
うさぎの毛一本もついていない黒いスラックス
音をぜんぶ吸い込みながらただただ降る雪
肉球のあずき色、肉球のピンク色、
まぁるいおめめの深い深い赤
男性が身につける桜色、女性の選ぶネイビー
西海岸みたいなブルージーンズ
世界はすきな色であふれてる
【相合傘】
何か新しい扉が開きそうで
勇気がなくて、てれくさくて、
そういう自分がいやで
居心地わるくて
必要に迫られても避けてたな
言葉そのものが感情を持ってることってあって、
あいあいがさもそのひとつ
たぶん、名前がよろしくない
思春期の連想力は、問答無用で
そのなかにLOVEをふたつも見つけるんだもの
相席とか相乗りみたいに
「相傘」と言えばあの傘に入れたのに
など思う
【落下】
落下
って文字を見るだけで、からだのまんなかが震える
ような気がする
前世で何かあったのかな
【未来】
みらい
関西にあるとある新交通システムには操縦者がいない
旅客輸送を主な目的として、
決まった軌道内を自動運転により走行する
ウン十年前、私は
島へ向かうその列車内から
高架の下を走る何台かの車やトラックを見ていた
車窓からは、目とおなじ高さに住宅が見える
高く葉を茂らせる広場の整然とならんだ樹々、
建築物のあいだを鳥のようにぬって一定の速度で移動する
遠くにはおだやかな海へとつづく空
低い機械音をたてながら濃紺の河を渡り、
まるで人の気配がない街の上空を、列車は無機質に進む
車内には俯いている大人たち、
多国籍な瞳、制服、スーツ、
みんなわかったような顔でどこへ行くのか
ああそうだ、
ここはロボットの街だ
そして、姉はこの未来の街で働いている
あのロボットの街は、どこへいったのだろう
緑が美しく、穏やかに風が凪いでいる
やさしく静かに整備されたこの街は、
ほんとうにあのロボットの街だろうか
無邪気で想像力に富んだ当時の自分に会いたい
未知のものに、私はあとどれくらい出会えるだろう
知らないほど強く、知るほど長く
未来は四方へのびている
【一年前】
一生、高速で渋滞に巻き込まれ続ければいい
一生、一般道で赤信号に捕まり続ければいい
一生、飲食店にて、直前の客で満席となって2時間待つはめになればいい
わすれることは許すこと
そう思っていた私の価値観に
埋めたまま綺麗に忘れ去る、という項目が追加されるまで五ヶ月
しょうもない呪いをかけたことすら
いつまでも覚えていると思うことなかれ