むにゃ子

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10/30/2023, 11:54:54 AM

桜が咲き始めると必ずあの春の日のことを思い出します。私たちの結婚に反対なさっていたあなたのお母様を、山へ埋めに行きましたね。そのときの桜の匂いと柔らかい風。土を掘るあなたのいつになく真剣なお顔。すべてはっきりと覚えております。お天道様の下でお散歩をすることも子をもうけることも私たちには叶いませんでしたが、最後までおそばに置いていただき私は大変幸せでした。

10/30/2023, 9:35:59 AM

俺達が通っていた高校の被服室にはシンデレラがいた。なぜいたのかはよく分からない。考えたって、正解かどうかすらもう知りようがない。シンデレラは天野と一緒にどこかへ行ってしまった。

天野はバスケ部に所属していて、顔も整っていたので女子からモテた。しかしよく笑いよく喋る気さくな奴で、俺達男子からの嫉妬の的になることはなかった。クラスの中心にいた。今思えば、当時俺の姉が読んでいた少女漫画の王子様に似ている。王子なのだからシンデレラと恋に落ちるのは当然だったというわけだ。天野は彼女の美しい見た目よりも内面に惹かれたらしかった。

全員で参加すると決めた体育祭の次の朝。天野はシンデレラに手を引かれて被服室の鏡の中に消えていった。天野のいなくなった教室は寂しさでしんみりとしていたが、俺達は感傷に浸るよりもあの二人の幸せを祈るよう努めた。シンデレラは日本語が話せたけど天野はいつも英語で赤点を取っていたから、向こうで苦労していないか今でも少し心配だ。

10/29/2023, 2:11:42 AM

「おい、起きろ」
「んん…?」
「交代だ」
「あ、ロイ、見張りありがとう…」
「俺は寝る。明日も狩りだからな」
まだ少し眠い。そういえば今日はライラと一緒だったんだ。焚き火の前に座っている。
「ミリア、起きたのね」
「うん。大丈夫?」
「今のところ何もないわ」
わたしたちは6人で旅をしている。仲間といるのは楽しいけど大変なことも少しだけあって、そのひとつが野営だ。毎日宿に泊まれるわけではない。野営のときは二人一組で、火のそばで見張りをするのだ。
「ねえライラ」
「なに?」
「あのね、今日ルークがダジャレ言ってたとき、シオンたちはくだらないって言ってたけどわたしはちょっと笑っちゃった」
「あはは!実は私もよ。あの3人のツボには入らなかったみたいだけどねえ」
暗い森の中、この火のそばだけは明るくてライラの顔がよく見える。わたしが大好きな笑顔。一緒に見張りをするとき、ライラはいつもわたしの話をニコニコしながら聞いてくれる。リヒトは空を指さして星座の名前や神話を教えてくれるし、ロイは黙って弓の手入れをしているけど、わたしが寒そうにしてたら何も言わないで薪をくべてくれる。シオンの故郷のことを聞いたり、ルークと一緒に明日は何を食べるか考えたりする時間も大好き。みんなすごく優しい。わたしが一番年下なんだけど、お兄ちゃんやお姉ちゃんがいたらこんな感じなのかな。そんなことを考えるころには、東の空が白みはじめていた。朝焼けを見ることができるのは、この時間帯に見張りをする人の特権だ。

10/28/2023, 3:57:19 AM

 背後霊のオリバーは生前執事だったらしい。私より一回り年下のお嬢様に仕えていたのだという。
「あ~今日で夏休み終わっちゃう…」
「休暇が終わるのは名残惜しいでしょうが、あの少年に会うことを楽しみにされているのでは?」
図星。こういうところだ。いつも後ろにいるから、知らなくていいことばかり知っている。それに一言多い。まあ当たってるんだけどね。
 
 始業式のあと、佐久間くんが私に緑色の紅茶缶をくれた。夏休みに鹿児島のおばあちゃんの家に行ってきたんだそうだ。
「そこに描いてあるウサギ、かわいいでしょ? 中原さんそういうの好きそうだと思ったんだ」
「ありがとう。私動物の中でウサギが一番好き」
みんなに配っている小さいクッキーとは違う。旅先で私のこと思い出してくれたんだ。
 
 「紅茶、あまりお好きではありませんでしたよね。どうされるんです?」「うん…」
佐久間くんとは最初は同じ中学のよしみだったけど、一学期の席替えで隣になって以来仲良くなった。私は彼のことが男の子として好きだし、佐久間くんも私を好きだと思う。カフェオレのほうがおいしい。本当はパンダが一番。でも大事なのは佐久間くんがくれたってことだ。ウサギを見たら私の顔が浮かんだのか、私へのお土産を探していたらウサギと目が合ったのか。どっちなんだろう。どっちでも良いけど、早く味見してお礼と感想を言いたい。
 
 オリバーに教わりながら淹れた紅茶を、来客用の透明なティーカップに注ぐ。ママはこういうモダンなデザインが好きみたい。とりあえず一口。意外とおいしい。ていうか私、紅茶の味知ってたっけ。知らない。飲まず嫌いだったんだ。
「おいしい」
「当然でございます」
なんか、オリバーって基本的にうざいけど、お嬢様の前では良き執事だったのかも。

10/26/2023, 12:57:48 PM

「いらっしゃいませ。ご注文はいかがいたしましょうか」
「エスプレッソで」
「エスプレッソを一杯でよろしいですか?」
「いや、二杯頼む。それと、絶対にこぼさないように気をつけて持ってきてくれ」
「…かしこまりました。ご案内いたしますのでこちらへ」


「というのがママとの出会いさ」
「ちょっと、その話は…!」
「いいじゃないか、戦争は終わったんだから。俺は君と結婚できて、シェラが生まれてきてくれて、今本当に幸せだよ」

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