むにゃ子

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 背後霊のオリバーは生前執事だったらしい。私より一回り年下のお嬢様に仕えていたのだという。
「あ~今日で夏休み終わっちゃう…」
「休暇が終わるのは名残惜しいでしょうが、あの少年に会うことを楽しみにされているのでは?」
図星。こういうところだ。いつも後ろにいるから、知らなくていいことばかり知っている。それに一言多い。まあ当たってるんだけどね。
 
 始業式のあと、佐久間くんが私に緑色の紅茶缶をくれた。夏休みに鹿児島のおばあちゃんの家に行ってきたんだそうだ。
「そこに描いてあるウサギ、かわいいでしょ? 中原さんそういうの好きそうだと思ったんだ」
「ありがとう。私動物の中でウサギが一番好き」
みんなに配っている小さいクッキーとは違う。旅先で私のこと思い出してくれたんだ。
 
 「紅茶、あまりお好きではありませんでしたよね。どうされるんです?」「うん…」
佐久間くんとは最初は同じ中学のよしみだったけど、一学期の席替えで隣になって以来仲良くなった。私は彼のことが男の子として好きだし、佐久間くんも私を好きだと思う。カフェオレのほうがおいしい。本当はパンダが一番。でも大事なのは佐久間くんがくれたってことだ。ウサギを見たら私の顔が浮かんだのか、私へのお土産を探していたらウサギと目が合ったのか。どっちなんだろう。どっちでも良いけど、早く味見してお礼と感想を言いたい。
 
 オリバーに教わりながら淹れた紅茶を、来客用の透明なティーカップに注ぐ。ママはこういうモダンなデザインが好きみたい。とりあえず一口。意外とおいしい。ていうか私、紅茶の味知ってたっけ。知らない。飲まず嫌いだったんだ。
「おいしい」
「当然でございます」
なんか、オリバーって基本的にうざいけど、お嬢様の前では良き執事だったのかも。

10/28/2023, 3:57:19 AM