誰かがお月様を食べてるから三日月になったんだよ。
母の子供騙しを間に受けた私は毎日毎日、自由帳に月を書いていた。月がいつ、誰に食べられているのかを知りたかったのだ。
飽きることなく一月。
かけては肥える月をただ書き写したスケッチブックが出来上がった。欠けることなく肥えていくスケッチブック。
色とりどりの瓶。
一つだけでも十分な存在感だがそれらが並ぶと一気に華やかであった。
ガラスに色をつけ瓶の形にしただけだというのに。値段も手頃とくればひとつだけでなく複数個買うのもいいだろう。現に近くの客が寒色系でまとめて買って行った。インテリアに使われるのだろう。
生憎とそんな趣味はないためもう帰ろうかとカバンを持ち直せば一際綺麗な緑が目についた。
遠い異国の地にいる友人の目が、綺麗な緑だった。
躊躇いは数秒で流れるようにレジに並んでいた。
天気予報の雪マークに憂鬱になるしかない。
ただでさえ寒いこの季節。寒々しい空模様に拍車をかけるが如く。昨今の値上げに度重なるイベントの出費を思えば暖房に頼りたくないが仕方なし。
ためらう指でエアコンの電源を入れた。
入れた。入れてしまった。
ゆっくりと室内が温められていくのがわかる。
文明の力には敵わなかった。
美味しいものを食べた時、美しい風景を見た時、心に響く映画を見た時。
真っ先に思い浮かぶのが君だった。
君と一緒に食事がしたい。外を歩きたい。映画を見たい。
一つの光景に君がいたら。
どんなふうに笑うのか、目を輝かせるのか。心をおどらせるのか。
一番近くで見たい。
君と一緒に
雲ひとつない見事な冬晴れ。
ヒヤリとする空気の中君の後ろ姿越しに空を眺めていた。今日が最後ならとその姿を焼き付けたかったが視界がぼやけ視界が悪い。泣くなど思っていなかった自分に若干のショックが芽生える。
それでも悪あがきにと君ではなく空に視線を移したのだ。いくらか気持ちが落ち着き輪郭が詳細になった。
しっかりしろ。
最後なんだぞとカツを入れる。
冬晴れの下の別れ道。
冬晴れ