限りなく落ち続ける 水
そこに怒りを感じたのは なぜだろう
遠くでは 鐘の音が なっているが
水のあまりの迫力に 圧倒される
削られ続ける 石
しかし そこには悲しみが ない気さえした
流れゆく水
いったいどこへ 辿り着くのか
二度と会うことのないしぶきに
別れを告げる
そして石よ、
お前の原型に
思いを馳せる
1秒たりとも欠けることのない水しぶきに
彩りを持たせる鐘に
ああ 諸行無常
なんて 気取ったことを 思った
まだ冬の香りが残る頃
あなたは「桜が見たい」と呟いた
慌てて私は 桜の植木を 探しに走り回った
(——すでに覚悟はできている 頃だった)
近くの花屋 遠くの植木屋
寒さで耳が痛くなるほど 探し回った
車のドアの開け閉めに 飽きるほどだった
◇
やっと 見つけた 小さな苗木
その枝は 細く 細く まっすぐと伸びていた
まだ春の兆しがなく 葉すら存在していなかった
◇
すぐさま 医師に看護師に頼み込み
そっと病室に持ち込んだ 桜の苗木
くすんだ茶色の枝と土の匂い
それでも
あなたも 私も
そこに 満開の花びらを みた
明日もし晴れたら 海に行こう
トンネルを抜けると そこには
目が眩むような 砂浜
◇
明日もし晴れたら 映画に行こう
開始5分で後悔しても B級でも
君と観れば 思い出なんだ
◇
明日もし晴れたら 感謝でも伝えよう
気恥ずかしくて あまり言えなかったこと
◇
明日もし晴れたら 素直になれるかもしれない
明日もし晴れたら 戦争が終わるかもしれない
明日晴れたら もう会えないかもしれない
明日の晴れを告げるラジオ
「さようなら」すら伝えられず
闇の中で 緑の機体だけが
ぼんやりと 佇んでいた
だけれども 唯一の 味方のようだった
すこし 前髪を切った
すれ違う人は皆 気がつくことはない
口紅のいろを すこし 明るくした
微笑まなくても 貴方ならわかるはずよ
誰かのためではなくて 貴方のために
一番の 可愛さを 表現したいの
少しのワガママくらい 許してちょうだい
なんて 心に秘めながら
今日も貴方に 会いにいく
「師匠、あなたは鳥籠にいて幸せなのですか」
窓越しに、弟子の野良鶯がそう尋ねる。
「はたして、鳥籠にいる私は幸せか、
と問うているのだな」
「そうです。私は自由に羽を動かすことができ、
何にも縛られないのです」
弟子は真剣な眼差しで、師を見つめる。
「で、あるか。では、君は外敵もおらず、
好きな時に寝て、3度の飯も確保される空間に
いたいとは思わないのか」
師はそう述べると、自慢の羽を少し広げ、
クチバシでつくろった。
「それは真の自由とは言えないのです!
敵がいるということ、それは すなわち、
味方もいるということではありませんか。
今日の飯が確保されていないからこそ、
美味しさが増すと思うのです」
野良鶯は、その美しい響きをさらに響かせた。
—ガチャリ。
「あら、素敵な鶯さん、こんにちは。」
短髪の、ワンピース姿のお嬢さんが
野良鶯の姿を見ながら部屋に入ってきた。
その声には、野良鶯も敵わないほどの余韻があった。
瞳は少し野暮ったくあるものの、
それはちょうど垢抜ける直前にしかない、
短命な美しさでもあった。
彼女が鳥籠に近づくたび、部屋には
ふと爽やかな風が舞い込んだかのようだった。
師の飼い主である。
「さてピーちゃん、ご飯にしましょ、ほら、あーん」
野良鶯は飛び立った。
来世があるのであれば、確実に、
ペットを目指そうと己に誓った。