『君と出逢って』
君と出逢って僕は、僕を生み出したのだと、
いま初めて気付いたのです。
私が文章を書くきっかけとなった、
私を元にして私が作ったあの子。
私の分身であり、半身なあの子。
そんなあの子を作るきっかけとなったのは、
君とした何気ないごっこ遊びだったんだ。
今でも覚えている。場所は近所の公園。
私たちは私たちでない誰かになろうとした。
そして、あの子の名前を考えた。
それが全ての始まりだったんだ。
君とごっこ遊びをするたびに、
私たちは新しい『誰か』を増やし、
それを演じ、交友させることで物語を紡いだ。
君との掛け合いがなければ、
あの子も、他のうちの子も、生まれていなかった。
かけがえのない時間だった。
少なくとも私にとっては、
何物にも変え難い貴重な体験だった。
君じゃなきゃ、ああはならなかったね。
中学生になってもごっこ遊びをするような、
そんな幼稚で楽しい日々を過ごせたのは、
君がいてくれたからだ。
あの子や、たくさんのうちの子、
たくさんの物語を生み出すきっかけとなってくれて、
本当にありがとう。
君と出逢って僕は、今の僕になれた。
全ては君のせいで、君のおかげだったらしい。
今更気付いた。
『何もいらない』
クリスマスのプレゼント。
誕生日のプレゼント。
何もいらないと思ったのは、
私が本当に欲しいものを与えられるのは
あなたではないと分かっていたからだ。
私が本当に欲しいものは、
美味しいケーキでも推しのグッズでも、
ライブのチケットでもお洒落な服でも、
ふわふわのぬいぐるみでもない。
私が本当に欲しいものは、
それらを楽しむための
『時間』と『余裕』と『お金』。
どれか一つでは駄目だ。
三つ全て、欲しいのだ。
でもそんなもの頼めない。
あなたが与えられるものではない。
『お金』くらいなら貰えるかもね。
けど、プレゼントに現金を頼むのは良くないって、
流石にそれくらいは分かってるの。
だから、何もいらない。
あなたじゃ私を満足させられない。
気持ちだけ貰っておくね。
そんなもの欲しくないけれど。
『それでいい』
人と関わることが苦手で、
対して努力もしてなくて、
そのくせ周りを羨んで。
欠点ばかりを気にかけて、
長所も特技も見出せず、
そのくせ自分を変える気もない。
それでいいのだと呟いた。
自分だけは自分を愛することができるのだから、
ありのままの自分を愛してやればいいのだと。
それがいいとは言えなかった。
現状維持には大賛成だが、
現状に満足はしていなかった。
そういうの全部ひっくるめて、
それでいいと思った。
それがいいとは思えないけど、
今はまだ、それでいい。
『夢が醒める前に』
たいへん!たいへん!
急がなくっちゃ!
あの子の夢が醒める前に、
あの子を連れて来なくっちゃ!
美味しいお菓子と楽しいお喋り、
素敵なドレスに愉快な友だち。
あの子が大好きなアップルパイも、
あの子が大好きなレモネードも、
あの子が大好きなものなら何でも揃ってる!
だから早くここに、
あの子を連れて来なくっちゃ!
現実は時に手厳しい。
美味しいお菓子も楽しいお喋りも、
素敵なドレスも愉快な友だちも、
きっと全ては現実にも存在している。
けれどもあの子は、
きっとそこでは、
大好きなものを手にしても健やかに笑えない。
だから早くここに、
あの子を連れて来なくっちゃ。
あの子の夢が醒める前に。
あの子が僕らを忘れる前に。
子どものままの、
あの子をここへ。
『欲望』
生きていて欲しかった。
死なないで欲しかった。
貴方を助けられるだけの力が欲しい。
貴方を守れるだけの力が欲しい。
なんて傲慢だ!お前のエゴでしか無い!
貴方の口から一度でも、
生きていたいと言われたか?
死にたくないと言われたか?
助けて欲しい、守って欲しいと言われただろうか?
生きていて欲しかったのは私で、
死なないで欲しかったのも私だ。
私は私のために貴方の生を求めている。
貴方のことなんてちっとも考えていない。
満足のいく死だったと思う。
貴方はきっと、清々しいほど見事な最期を迎えた。
それの何が駄目なのだろう。
再度の生を貴方は求めていないだろう。
私の願いは不必要である。
ただ花を手向けに行けば良いだけだ。
それだけで良い筈なんだ。