冬山210

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10/25/2023, 3:53:06 AM

『行かないで』

行かないで欲しかったんだ、本当は。
繋いだ手を離さないで欲しかった。
このままずっと抱きしめていて欲しかった。
叶うことならずっと、貴方の声を聞いていたかった。

 ねぇ、お国のことも何もかも放り投げて、
 このままどこか遠いところへ逃げてしまわない?
 誰の目も届かぬところで二人きりで暮らすの。
 そうして貴方は老いて死ぬの。
 私もきっと、老いて死ぬから。

いつの日か酔って吐いた戯言を貴方はずっと覚えてた。
だから私に触れるとき、そんな顔をしたのでしょう。
言わなきゃ良かった。
そんな目で見られたくて言ったんじゃない。

9/24/2023, 2:30:04 AM

『ジャングルジム』

ジャングルジムのてっぺんから落っこちた、
あの子のことを覚えている。

ママたちが悲鳴をあげて駆け寄った。
ミカちゃんのママが救急車を呼んだ。
アオくんのママは私たちを近づかせないようにした。
あの子のママは、ただあの子のそばで泣いていた。
ユウカちゃんのママがあの子のママに声をかけていた。

覚えている。
あの子のママの泣き叫ぶ声。

覚えている。
あの子が地面に落ちた時の音。

覚えている。
……あの子、わざと落ちたんだよ。

ジャングルジムのてっぺんに登るあの子を、
私は遠くから見ていた。
あの子はてっぺんまで辿り着いて嬉しそうだったけど、
ママたちは誰もあの子のことを見ていなかった。
だからあの子は「きゃっ」と小さな悲鳴をあげて、
てっぺんにつけていた足を滑らせたかのように見せて、
地面に打ち付けられにいったのだ。

私はそのことをママに伝えたけれど、
「わざと落ちるわけがない」と信じてもらえなかった。

あの頃からあの子はそういう子だったのだ。

9/8/2023, 8:36:28 AM

『踊るように』

踊るように桜が舞った。
それを追いかけて子犬が舞った。
ワルツ、ワルツ、子犬のワルツ。
せっかくだからShall we dance?
僕と一緒に踊りましょう。
拙くたって良いのです。
だってこれは子犬のワルツ。
主役は僕らじゃなくて彼ですからね。
さぁ、子犬くん。桜はまだまだ舞ってるぞ。
踊るようにひらひらと。

9/5/2023, 10:05:55 AM

『きらめき』

何かを観ている時、読んでいる時、聞いている時、
誰だって一度は感じたことがあるだろう。

「私もそれをやってみたい!」
という衝動。

それは憧れ。
自分にないものを羨ましく思う気持ち。
それであり、同時に、大切な『きらめき』でもある。

やってみたい、なってみたい。
きらきらとしたそれは君の中で瞬く。
それを憧れのまま終わらせるのか、
膨らませて夢にするのかは君次第。

『きらめき』は夢の卵である。
簡単には破れない卵が見つかるといいね。


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気づいたら19時過ぎてたけど供養。

8/23/2023, 11:02:55 AM

『海へ』

海へ行こうか。
ほら、黒いワンピースをあげる。
これを着ておいで。夜の海に紛れよう。

月が映ってる。
海面が揺れている。
波の音が聞こえる。
君は誘われている。

深くへ落ちよう。
海水は冷たくないね。
どこまでも沈んでいける。

呼吸ができなくなったなら、海水を飲めば良い。
あまりの塩辛さに目が覚めるだろう。
そしたらほら、そこがベッドの上だと気づく。
夢なんかじゃないけどね。

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