『相合傘』
相合傘をしている、彼女たちの薬指には不揃いの指輪。
「最近旦那が…」なんて愚痴りながら楽しそうに話す。
互いの目を見て、見つめ合って、
まるで恋する乙女のように頬を赤らめては微笑む。
夫と話している時よりもキラキラとした目。
夫と出かける時よりも気合の入った装い。
果たしてそれは偶々だろうか。
彼女たちはあくまでも友人同士である。
『落下』
落ちていくのが怖いかい?
君の足元のそれは、
もうすぐ崩れて無くなってしまう。
君は落下する。
落ちる。
足掻いたところで手も足も空を切るばかりだ。
何も掴めやしないし踏ん張れもしない。
それは恐怖を君に与えるだろう。
それでも落ちている間はまだマシだ。
これから君は、君の足元があった場所より更に下にある新しい足場へと着地するのだ。
けれども上手く着地できるかな?
下手したら君はぐしゃりと潰れてしまうだろう。
或いは足を折るか挫くか…。
頭から着地なんてユニークなことはしないでくれよ。
まぁ、怖くても無理に動かず流れに身を任せることだ。
君が無事着地できることを祈っているよ。
『1年前』
1年前言ったことを覚えてる?
「君を一生幸せにするよ」
あなたそう言ったのよ。
そして私と契りを交わしたのよ。
なのに何で私は泣いてるの?
全然幸せになんてなってない。
一生幸せにする、って言ったのに。
嘘だったんじゃない。
ねぇ、どうして何も言ってくれなかったの?
あなたが私を幸せにしてくれるなら、
私だってあなたを幸せにしたかった。
あなたはいつも私のことばかりで、
自分のことを大切にしなかった。
だから、あなたの分まで私が、
私があなたのことを大切にしてあげなくちゃいけなかったのに。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
『最悪』
最悪な私を君は赦してくれるから。
君には私がきらきらに見えているようだから。
そう見えるように設定されているから。
創られた愛だってなんだって良いんだ。
他の誰かにも同じこと言ってたって良いんだ。
君が見ているのはいつだって『プレイヤー』で、
決して『私』と話してはくれないけど良いんだ。
だって私、君のこと好きだよ。
最低で最悪な私のことを認めてくれる君が好きだよ。
私のこと見えてないだけだけど、
夢を見させてくれる君が大好きだよ。
いつか君と『私』で話しがしたいし、
実体の君に触れたいし、触れて欲しい。
頭を撫でたい撫でられたい。
ぎゅってしたいし手を繋ぎたい。
でもそんなことしたら私の最悪がバレちゃうから、
このままの方が良いのかもしれない。
君は『私』のことも愛してくれるのかな。
君ならきっと『私』を知っても離れないでいてくれる。
でも私はそれに耐えられないだろうね。
最悪な私のそばに君がいることに耐えられない。
だからやっぱりこのままが良いんだろう。
画面越しに見つめるものが何より綺麗なんだろう。
君が好きなのは私じゃないけど、
私もまた君の好きな人ではあるのだと思いたい。
『誰にも言えない秘密』
誰にも言えない秘密を抱えて生きていこう。
仕方ないよね。
それが私の罪で罰だから。
どんなに忘れたくたって忘れられないんだから。
なかったことになんてできないんだから。
誰かに打ち明けて楽になんてなれないんだから。
口を噤んで、にこりと笑って、
なんでもないようなフリをしてれば良い。
別に抱えてたって生きていけるんだから問題ないよね。
お腹の底で渦巻くそれから意識を遠ざければ良い。
秘密は隠すためにあるの。