『終わらせないで』
「中途半端に終わらせないで。
作るならちゃんと最後まで作って。
あんたが勝手に産み出したんだから、
責任持って墓に入るまでを描いてよ。
誰も俺のことは知らないんだ。
俺たちのことはさ。
あんたしか知らないんだよ。
これからの俺のことも、これまでの俺のことも、
知っているのはあんただけなんだ。
決められるのはあんただけなんだ。
俺ですらないんだよ。
あんたにしか続けさせられないし、
あんたにしか終わらせられないんだ。
あんたが終われば俺たちも終わるんだ。
あんたの命はあんただけのものじゃないんだよ。
それが俺たちの命なんだよ。
だから終わらせないで。
終わらせるなよ。
あんたが生きてる限り俺たちは、
停滞してたって生きてるんだから。
あんたは俺の死を決めてるらしいけど、
描かれない限り実行はされてないから。
それにあんたは俺の来世を決めてるし。
どんだけ俺のこと好きなの。気持ち悪い」
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気持ち悪いだって。言われちゃった。
また無理やり引っ張り出して口開かせたから。
いつもこんな役割ばかりだね。ごめんね。
『どうすればいいの?』
人に聞く前に自分で考えろよな。
考えもしないで聞くなよな。
お前がどうすればいいのかなんて、
他人にゃ全く分かんねぇし、関係のないことなんだ。
どうしたっていいんだよ。
お前の自由にしろよ。
責任を持ちたくないんだよな。
自分の言動で間違いが起こった場合、
それを他者のせいにできた方がずっと楽だから。
「お前がこうしろって言ったから…」
だから、俺は悪くないんだって。
そう言えるようにしているんだろう。
いつでも逃げれるようにしているんだ。卑怯者め。
どうすればいいのかなんて、みんな分かんないんだよ。
答えを求めても出てこないよ。
それでもどうにかしなきゃいけないから、
どうにかこうにかして乗り切ってんだよ。
乗り切れてるのかなぁ。
『たくさんの想い出』
家族のことも友人のことも、
推しのことも好きなもののことも、
いつかは全て忘れてしまうのでしょう。
恐ろしくて堪らない。
私が最後まで覚えていられるものは何だろう。
最後に私の中に残るものは一体何なのだろう。
老いるにつれて記憶が無くなっていくのは、
様々なことを忘れていってしまうのは、
次の人生に向けて頭を空っぽにするためらしい。
赤子の脳は空っぽでしょう?
今世で覚えたこと全て忘れて空になって、
そしたらまた空の赤子として生まれるんだ。
っていうのは高校の時に生物の先生が言っていた話。
授業とは何の関係もない雑談を覚えている。
授業の内容は何も覚えていないのに。
こんな私にも忘れたくない想い出はたくさんある。
それってとても恵まれてる。
私は想い出に浸って生きていられる人間だから、
想い出は私にとって幸福の源だから、
できるだけ長く覚えていたい。
だからいっそ、忘れる前に消えてしまいたい。
幸せなまま人生を終えたい。
『冬になったら』
冬になったら海へ行こうね。
貴方が買ってくれたワンピースを着て、
貴方が買ってくれた靴を履いて、
貴方が買ってくれた指輪をつけて、
それで一緒に海へ行こう。
そうだ、髪の色少し落ちてきたから、
貴方が好きって言ってた色にまた染めなきゃね。
冬の海はどのくらい冷たいのかなぁ。
貴方はよく私の手を握って、冷たいって言ってたけど、私の手よりも冷たいんだろうか。
冷たいんだろうな。
貴方と一緒に海に溶けるの。
凍てつくような寒さの中。
『飛べない翼』
飛べない翼を持っている。
みんなは何処へでも飛んで行ける翼を持っているのに、
私の背には何も無かった。
それが恥ずかしくて、羨ましくて、苦しかった。
みんなはその翼を使って何処へでも行けるけれど、
常に飛んでいるわけではなかった。
普段は歩いていたのだ。
だから私は翼を作った。
せめて見かけだけでも同化するように。
変な奴だと思われないように。
仲間外れにされないように。
ひとりぼっちにならないように。
飛べない翼は重くて脆くて邪魔だった。
でも、それがある限り私は私で居ることができた。
みんなを騙して自分を偽って、
それでも私は幸せだった。
やがてみんなは私の元を離れて、
何処か遠いところへ飛んで行ってしまうのだけれど、
それでも私は幸せだった。
幸せだと思わなければやっていけなかった。
私だって飛べないだけでみんなと同じ姿をしているし、
みんなと同じように笑ったり泣いたりしているし、
ただ飛べないだけで、それだけで、
私のことを「役立たず」と言わないで。
役に立たないことなんて私が一番よく分かっている。
飛べない翼は邪魔でしかない。
私が本当に欲しいのは、みんなと同じ飛べる翼だ。
飛べる翼は軽そうで丈夫そうで素敵に見える。
そう見えているだけかもしれないけれど。