冬山210

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『飛べない翼』

飛べない翼を持っている。


みんなは何処へでも飛んで行ける翼を持っているのに、
私の背には何も無かった。
それが恥ずかしくて、羨ましくて、苦しかった。

みんなはその翼を使って何処へでも行けるけれど、
常に飛んでいるわけではなかった。
普段は歩いていたのだ。

だから私は翼を作った。
せめて見かけだけでも同化するように。
変な奴だと思われないように。
仲間外れにされないように。
ひとりぼっちにならないように。

飛べない翼は重くて脆くて邪魔だった。
でも、それがある限り私は私で居ることができた。

みんなを騙して自分を偽って、
それでも私は幸せだった。

やがてみんなは私の元を離れて、
何処か遠いところへ飛んで行ってしまうのだけれど、
それでも私は幸せだった。

幸せだと思わなければやっていけなかった。


私だって飛べないだけでみんなと同じ姿をしているし、
みんなと同じように笑ったり泣いたりしているし、
ただ飛べないだけで、それだけで、
私のことを「役立たず」と言わないで。

役に立たないことなんて私が一番よく分かっている。
飛べない翼は邪魔でしかない。
私が本当に欲しいのは、みんなと同じ飛べる翼だ。

飛べる翼は軽そうで丈夫そうで素敵に見える。
そう見えているだけかもしれないけれど。

11/11/2022, 8:25:19 PM