『飛べない翼』
飛べない翼を持っている。
みんなは何処へでも飛んで行ける翼を持っているのに、
私の背には何も無かった。
それが恥ずかしくて、羨ましくて、苦しかった。
みんなはその翼を使って何処へでも行けるけれど、
常に飛んでいるわけではなかった。
普段は歩いていたのだ。
だから私は翼を作った。
せめて見かけだけでも同化するように。
変な奴だと思われないように。
仲間外れにされないように。
ひとりぼっちにならないように。
飛べない翼は重くて脆くて邪魔だった。
でも、それがある限り私は私で居ることができた。
みんなを騙して自分を偽って、
それでも私は幸せだった。
やがてみんなは私の元を離れて、
何処か遠いところへ飛んで行ってしまうのだけれど、
それでも私は幸せだった。
幸せだと思わなければやっていけなかった。
私だって飛べないだけでみんなと同じ姿をしているし、
みんなと同じように笑ったり泣いたりしているし、
ただ飛べないだけで、それだけで、
私のことを「役立たず」と言わないで。
役に立たないことなんて私が一番よく分かっている。
飛べない翼は邪魔でしかない。
私が本当に欲しいのは、みんなと同じ飛べる翼だ。
飛べる翼は軽そうで丈夫そうで素敵に見える。
そう見えているだけかもしれないけれど。
11/11/2022, 8:25:19 PM