『誰にも言えない秘密』
何故、誰にも言えないのだろう。
言ったら失望されてしまうから、嫌われたくないから、怒られたくないから、恥ずかしいから、思い出したくないから、関係性を壊したくないから、自分だけの思い出にしておきたいから……
今のままでいたいから、誰にも言えない。
そもそも言ったところで誰も受け入れてはくれない。
良くも悪くも、己の抱えるその秘密は、他者がどうにかできるものではない。
その秘密は私だけのものだから。
その秘密は私だけが抱えなければならないものだから。
その秘密は誰かと分かち合うものではないから。
本当は誰かに全てを打ち明けてしまいたい。
あらゆる秘密を共有して楽になりたい。
けれども、それは許されない。
私が許してはくれないのだ。
『誰にも言えない秘密』が誰にも言えないのは、
「誰にも言わないで」と私が頼み込むから。
『不安なこと、辛いこと。正直に、心のままに。』
生きていくことがとても不安でとても辛い。
社会に適応することが苦痛だ。
正直に、心のままに、全てを曝け出しても受け入れてくれる相手が欲しい。ありのままの私を見て、ありのままの君が良いと、言って欲しい。
けれども、それは無理だ。
何もかもを許容してくれる人間なんて現実にはいない。
であれば、せめて。せめて私だけは私を受け入れてやろう。私の全てを許容してやろう。私を愛してやろう。
私のことが嫌いな私も、私の意見に反する私も、私が抱える不安も苦痛も、全てまとめて愛してみせよう。
私を愛せるのも守れるのも、私だけなのだから。
『梅雨』
君って奴は相合傘がしたかったんだな。
私も君も傘を忘れたことなんてなかった。
だから相合傘なんてする機会はないはずだった。
それなのに君は、君はさ。
私が傘を開こうとしたら急に近くに寄ってきて、問答無用で私を自分の傘に入れてしまったんだ。
私は開きかけた傘をどうすれば良かった?
傘を持っているのに人の傘に入れてもらうなんて変だ。
そこまでして相合傘がしたかったのか。
君も大概、『彼女』とやらに夢を見ているな。
『天気の話なんてどうだっていいんだ。僕が話したいことは、』
天気の話なんてどうだっていいんだ。
明日が晴れようが、曇ろうが、雨が降ろうが雪が降ろうが、台風が来ようがどうだっていい。
僕が話したいことは、そんなつまらない話じゃない。
僕が話したいのはもっと面白い話で、君と腹を抱えて笑い合えるような話で、テンポ良く会話が弾むような話で、一生の思い出に残るような話だ。
そんな話がしたいんだ。
けれどもそんな、素敵な話が思いつかないから、僕は君と何回目かの天気の話をする。
何度話したって明日の天気は変わらないのにな。
『半袖』
腕を出すのは嫌だからと、君は夏でも長袖を着た。
細い腕を隠して「太いでしょう?」と聞く君は馬鹿だ。
本当は君の半袖が見たかった。
私がどれだけ「太くないよ」と言ったって、
「君にはこの服が似合うよ」と言ったって、
君はそれを受け入れてはくれなかった。
君のその柔らかな肌は日の光を浴びなかった。
それが今はどうだ。
君は真っ白なドレスに身を包み、相変わらず細いその腕を何の躊躇いもなく曝け出されている。
「腕は出したくないのではなかったのか?」
私がそう聞くと、
「彼がこのドレスが似合うと言ってくれたの」
と言って幸せそうに頬を染めた。
君の半袖なんて見れなければ良かった。