愛があれば何でも出来るとは思わない。いくら好きな人と言っても無償の愛で、同じく値段の付けられない命を捧げることは俺には出来ない。金を払われたとしてもそれは無理だ。
でも別に愛はないけど横山に死ねと言われたら俺は死ねると思う。あいつが言うのなら、俺が死んだ方が何かメリットがあるのだろうと納得して俺はその身を投げ出せる。
理由なんて必要ない。説得力の話だ。
あるいはそれくらい俺は横山を信用している。
信用に足る人物だと認めている。
まぁ、そんなこと起こらないのだけれど。甘ちゃんだから。
そうならないように知恵熱が出るほど頭を捻らせるのだろう。
そういうところが人が着いてくる理由か。
何一つ捨てられずに抱えていくあの子が、いつでも切り捨てられる存在でいたいと思う。人がいいから自分からは言えないだろうから、それを汲み取って俺を離さない手ごとばっさりと切り捨ててやる。だからそれまでは死ねない。
(やからそれを愛っていうんやんかぁっ!)
そう空から叫ぶ声を俺は知らない。
『愛があれば何でも出来る?』
作者の自我コーナー
いつもの。鈍いサムライさんと少しメルヘンな話。
ーー見下ろされた時のあの人の水分量の多い瞳が忘れられない。骨張っていて、でも強く握ってしまえば折れそうな手首の感触を忘れられない。状況を飲み込みきれなくて出てしまった俺の名前の間抜けな音ととか、把握した後の震えた声とか。
こんな暴挙に出るなんて誰が思っただろう。
俺も思わなかった。弟にいつまでも甘んじていられると思っていていたのに、こんな風に自分から壊してしまうなんて。
あなたを泣かせるのは俺の役目じゃなくて、どちらかと言えば俺はそれを慰めるでもなくただ傍観しているというか、そもそも俺の前で泣くことがあの人にとっては不本意なことなのだ。
それでいいと思っていた、あなたにとっての俺でいようと思っていた。あなたに甘やかされて、ときどき甘えられる俺で満足だったのに。
他の奴構おうとするから。それとも俺があかんかったん?
あなたの前では可愛い弟やったやん。あなただけの俺は要らんかったん?
かわいこぶってたのが逆効果だったみたいだ。
他と違う扱いに寂しがり屋の彼は寂しくなってしまったらしい。『俺も同じがいい』だってさ。でもそれは無理やで。
だってあなたは俺にとって特別な人だから。
でも好きな子のお願いは叶えてあげたい。
だからもう遠慮はしてあげなかった。
俺を見上げる可愛い目が大きく見開かれて、口がパクパクと動く。驚きすぎて声も出えへんくなっちゃったん?
言いたい言葉は『なんで?』かな?なんでやろうね、当ててみてよ。いくら鈍いって言ってもここまでされたら解るやろ?
別人みたいに見えるかな?でもこれがあなたが望んだ弟とちゃう俺やもん。
『後悔』してる?震えてる。怖いよなぁ、一回りおっきいもん俺。
でもごめんなぁ、俺『後悔』してへんねん、全然。
(むしろやっとスタートラインに立てたようなそんな達成感)
作者の自我コーナー
特別になりたかった話。別に彼の方も後悔をしている訳ではない話。多分言葉にしろって5秒後には殴られている『弟』君。
すぐ拗ねる、人のことをよく揶揄う、くだらない嘘をつく。
ゲームで負けたらコンセントを抜くくらい負けず嫌い。
1回気に入ったことはずっとやるし、同じものずっと食べてる。ルーティンと言えば聞こえはいいが、ただの偏食だ。
勉強が嫌いで興味のないことは秒で飽きる。じっと出来ない。
永遠のピーターパン。お前はあの頃から見た目も中身も何一つ変わってない。子供のままだ。
頼りがいがあるのは昔からだ。頼もしさが増しはしたが、
兄貴肌なのは変わらない。アニメ版のジャイアンと映画版くらいの違い。
つまりブラッシュアップはされているが根本は一緒。
俺はこんなに変わってしまったのに。
お前は目まで変わらないのか。
お前の目には俺が子供の頃のままに見えているのか。
「いちばんかわいいよ」
「顔が好き」
「村上さんの方がかわいいな」
そんな訳ないのに。あの頃と変わらない言葉をくれるのだ。
いや寧ろ、お前の『かわいい』を戯れ言と飲み込めない俺が、『子供のままで』いるのかもしれない。
(真に受けたいなんて馬鹿げてる)
作者の自我コーナー
いつもの。自分では捨てた思っているものを見出されて居心地が悪い人の話。地続きに同じ人なんですけどね。
手放したのは俺になるんやと思う。
全然手放したつもりなんかないって言うたら、
ヒナはどんな顔するんやろうか。
俺より夢を選んだくせに、って糾弾するんかな。
いっぱい泣かせたもんな。もう泣き虫じゃなくなったはずやのに、この10年引っ込んでた泣き虫が顔見せて、子供みたいに鼻グズグズさせて。「行かんとってやぁ」って俺のシャツ掴みながら泣きじゃくっとったお前を見て心揺らがへんどころか俺はお前の俺への愛を再確認して嬉しがっとった。
間違いなく鬼畜生やと思うわ。俺やったら「そんな男やめとけ!」って言う。
最終的にお前は俺を笑顔で送り出してくれた。
「何も今生の別れっちゅう訳ちゃうもんな、どこでも行ってき」と。そうなるまでどれだけ泣いたんやろうかと思うほどその笑顔を浮かべる目は腫れていた。昨日の今日までお前は俺を思って泣いてくれたんやなぁと。
事実上はお前を置いていく薄情な男を。
ほんまは連れていきたかったよ、なんて言い訳やな。
でもヒナが居らんと生きていかれへん人間が居りすぎるねん。
俺もその一人やった。過去形や。
もう俺は一人で立てる、お前のお陰で。
さっきの話、ヒナは俺を責めるかってそんなの分かりきっている。ヒナは責めへん、人に怒るのが苦手な奴やから。
こんな俺を好きでいてくれるどうしようもない阿呆な奴やから。勝手に沈みこんで歌えなくなった俺を引っ張りあげて立たせて、すばるの歌う歌が好きやねんと再びマイクを握らせたのはお前だから。
どこにいたって俺はヒナの好きな俺の歌で、お前ヒナを好きな俺の歌を歌うよ。俺の歌声はよお通るからきっといつだってお前に届く、絶対届かせる。
どこかで「しゃあないなぁ、おっちゃんは」って笑ってくれてたらそれでいい。
だから今日も『愛を叫ぶ。』
作者の自我コーナー
いつもの、ではないけれどこの二人も大切に胸の中にしまっておきたい二人です。あの約束は今も生きていてほしいなと思う亡霊。
今も今で良い関係を築けていると思う。
でも、ギラギラした目がふっと緩むのとか、甘ったるい声で告げられるかわいいとか、唇をなぞる指先とか、切羽詰りながら俺の名を呼ぶ声とか、慈しむように顔中に降ってくるキスとか、
そういう、俺があんたのもんやったときのことがふとした時にぶわぁっと甦ってくる。
やから優しくせんとってよ。セピア色の思い出にさせてよ。
『忘れられない、いつまでも』
(まだあんたに色付いたまま)
作者の自我コーナー
いつもの。少しおセンチな話ですね。
思い出が思い出にならないくらいいつも一緒にいるふたりの話。恋人になろうがならまいがこの二人の関係は変わらないんですよね、矛盾。