Minor

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3/15/2023, 12:36:44 PM

星なんてとうの昔に見えなくなったこの世界では、空を見上げても見えるのは鉛色の空ばかり。

20XX年。世界的な大気汚染により、世界中の空から星が、消えた。
「ねえお母さん、ホシってなぁに?」
「…え?お星様なら空に…。あぁ、そっか。」
私の子どもは、星を見たことがないんだ。私が子供の時なんてきらきら星っていう歌があったんだよと、本当は少し寂しいけど、笑いながら教えてあげた。

「星が、見たい?」
「うん!今日ねスマホで読んだの。人は、死んだら星になるんだって!」
「…あのね、それは」
「あるんでしょ?見たい見たい!星、見たいー!!」

…うるさい。そんなの、私だって星見たいよ。修学旅行の広島で見た満天の星空。流れ星に誓った受験合格。金星に夕星っていう名前があるんだよと教えてくれた初恋の理科の先生。
どれだけ思い出があると思ってる。どれだけ私があなたより星を見たいと思ってる。人は死んだら星になる?そんなに星が見たいなら、私が死んでしまおうか。
いや、本当に見たいのは、私、か。

育児を終えて、子供の反抗期を乗り越えて、親の介護をこなして、子供の結婚式と孫を見届けて、その先に病気か。
でも、死ぬことに恐れは抱いていない。いつか私の子供が言ってたな。人は死んだら星になると。ずっと見たいと思っていたんだ。念願が叶うと思えば、恐くなんてあるものか。あぁ、段々と、意識が薄れていく。

次に目を開けたその時に、目の前に入り込んできたのは、溢れんばかりの星だった。私の目から溢れた涙が、流れ星になって、孫たちが星を見れる世界が来ますように…。

#星が溢れる

3/15/2023, 5:30:46 AM

「これ、ホワイトデー」
「ん、ありがとう」
父からのお返しは、チョコなんて飾ったものじゃなくて、私の大好きなアレだった。

「え、ホワイトデーだよ?いいの?そんな、酒のつまみみたいなんで。一応ウチらまだJCですけど」
友だちに父からのホワイトデーのお返しを見せたら言われた言葉だ。まぁ、あながち間違ってない。確かにアレは酒のつまみだ。だって私も初見の時そうツッコミいれたし。
でも、いいんだ。私がソレを望んだんだから。高級ブランドのチョコよりも、手づくりのチョコよりも、私が好きで、美味しいって思えるものをもらった方が嬉しいに決まってる。それに、貰った人が喜んでくれたら、あげた父だって嬉しいはずだ。
だから私はホワイトデーにアレを望んだし、父もあったかい目で喜ぶ私を見ていたことだろう。

でも、もうその父の安らかな瞳を見ることも叶わない。私が二十歳になってすぐ旅立ってしまった父の墓に腰を下ろす。
「父さん、私ももうお酒が飲める歳になったよ」
そう言って、私は酒のつまみに、大好きなあたりめを置
いた。

#安らかな瞳

3/13/2023, 1:07:24 PM

2010年3月13日

ぼくは、お人形さんなんだって。ぼくの体には糸が繋がっててね、ずっとずぅっと、お母さんのそばにいるんだって。あとね、お母さんはね、いつも

「あなたまで置いていかないで、ずっと隣にいて」

って、ぼくに毎日毎日言うの。でもね、ぼくは友達と遊びたいの、お散歩に行きたいの、ゲームを友達とたくさんしたいんだぁ。でもぼくの体には糸が繋がってて動けない。だから僕、思ったんだ。

「お母さんが動かなきゃいいんだ!」

今度は、お母さんの番だよ。たっくさんの糸をぼくに繋げた分、ぼくもお母さんに糸を何重にも何重にも巻き付けたの。そしたらね、お母さん動かなくなった!

2023年3月14日

久しぶに日記を読み返した。自分がやったことなのにゾッとする。子供って残酷だな。でも、間違ってなんかない。
なあ、母さん。

僕は、お前の操り人形なんかじゃない。

#ずっと隣で

3/12/2023, 11:36:40 AM

私は、月に1度自分の頭を壊す。と言っても、別に死にに行くわけではない。壊す。そして、リスタート。その繰り返し。目的は頭を初期化すること。私がこの行為を始めたのは、主様が、分からないことを言ったから。

「お前は、全てを知っていて楽しいか。生きていて…いや、存在していて」
「主様、私はカラクリです。楽しいなどという感情を抱く必要がありません」
「…よく聞け。俺は先が短い。いつおっ死ぬか分からないんだ。お前は俺がガキの頃からそばにいた。それなりに感謝してるんだ。」
「主様」
「いいか、俺はお前をまがいなりにも愛している。カラクリだろうがなんだろうが、家族よりも誰よりもずっとそばにいたのはいつだってお前だ」
「主様っ」
「お前には、幸せに、なって欲しいんだ。俺が、お前を、愛して、いる、から…」
脈がない主様。どんどん体が固くなっていった。この時の私もまだ、主様が亡くなったことを機械的には理解している。
でも、分からない。初めて分からないことが出来た。

愛してるとは、なんだ。

その日から私は愛してるを理解しようと、頭の中にインストールされている知識を全て壊した。インストールされていた知識のせいで理解出来ないのかもしれないと考えたからだ。今月もまた、理解できなかった。愛してるを理解するためだけの知識が欲しい。

ワカラナイ ダカラ シリタイ

#もっと知りたい

3/11/2023, 11:51:26 AM

「完璧や」
6時。カフェの雰囲気を思わすお気に入りの洋楽のプレイリスト。朝焼けの冷たく気持ちええ空気。淹れたてのアールグレイ。これぞ、平穏な日常の一日。そして完璧な朝や。

ードッカアァァァアン!!!

前言撤回、全く持って平穏やない。壁が吹き飛んだ。あと立てかけてたギターも。修理費いくらやねんこれ。
「はぁ…、どいつもこいつもよう飽きもせんと来るもんやなぁ」

ここは東京のパラレルワールド。ーえ、関西弁やのに東京なんとか思ったそこの君。こーいうアクションものは東京の方がパッとするでしょーが!!
えー、気を取り直して。今や日本中に蔓延った巨獣を駆逐することを目的とし、市民の安全を守る特殊部隊。その名も…
「このドアホ!カッコつけとる暇あるんやったらさっさとコイツ倒せや!!アホか!」
「2回もアホ言うなや、流石に傷付くわ!…ま、いっちょひと騒ぎしますか」

そんなこんなで落ち着けない平穏な日々は続いていく。人知れず、誰もが誰かの平穏を守りながら。そして自分も、こうやって仲間と軽口を叩けることが、どれだけ幸せかも知らずにー。

#平穏な日常

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