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星なんてとうの昔に見えなくなったこの世界では、空を見上げても見えるのは鉛色の空ばかり。

20XX年。世界的な大気汚染により、世界中の空から星が、消えた。
「ねえお母さん、ホシってなぁに?」
「…え?お星様なら空に…。あぁ、そっか。」
私の子どもは、星を見たことがないんだ。私が子供の時なんてきらきら星っていう歌があったんだよと、本当は少し寂しいけど、笑いながら教えてあげた。

「星が、見たい?」
「うん!今日ねスマホで読んだの。人は、死んだら星になるんだって!」
「…あのね、それは」
「あるんでしょ?見たい見たい!星、見たいー!!」

…うるさい。そんなの、私だって星見たいよ。修学旅行の広島で見た満天の星空。流れ星に誓った受験合格。金星に夕星っていう名前があるんだよと教えてくれた初恋の理科の先生。
どれだけ思い出があると思ってる。どれだけ私があなたより星を見たいと思ってる。人は死んだら星になる?そんなに星が見たいなら、私が死んでしまおうか。
いや、本当に見たいのは、私、か。

育児を終えて、子供の反抗期を乗り越えて、親の介護をこなして、子供の結婚式と孫を見届けて、その先に病気か。
でも、死ぬことに恐れは抱いていない。いつか私の子供が言ってたな。人は死んだら星になると。ずっと見たいと思っていたんだ。念願が叶うと思えば、恐くなんてあるものか。あぁ、段々と、意識が薄れていく。

次に目を開けたその時に、目の前に入り込んできたのは、溢れんばかりの星だった。私の目から溢れた涙が、流れ星になって、孫たちが星を見れる世界が来ますように…。

#星が溢れる

3/15/2023, 12:36:44 PM