愛の上に平和が成り立つのか。
平和の上に愛が成り立つのか。
はたまた、イコールか。
私は思います。平和を失った上に愛が成り立つのだと。
これはそんな物語。
銃口が突きつけられる。ここは戦場。荒んだ荒野の中、倒れた自分と、自分の上に馬乗りになって銃口を突きつける美しい黒髪の女。女は言う。
「愛してる」
自分は言った。
「愛してた」
「今は…?愛してないの?」
「どうだかな」
「ふふ、相変わらず変な人ね」
自分と女は敵国同士だ。もっとも、それを知ったのはつい先刻のことだがな。
所謂、禁断の恋。自分の一目惚れだった。確かに愛していた。だが、段々と。でも確実に。女を疑い始めた。スパイなのではないかと。答えは、当たりだ。自分が女をスパイだと気付いたことに女が気付いた。そして、押し倒され銃口が突きつけられた。
「動くな!!!」
しまった。女側の国の兵に囲まれていた。まんまと嵌められた。自分は女の方を見た。敵が囲まれてせいぜいいい気分で笑っていたりするのだろうか。
女は、泣いていた。それも自身のこめかみに銃口を当てて。
「本当に、愛してる。私が死んだら、貴方もこの銃をこめかみに当てて死んでね」
銃声が響く。耳が痛い。飛び散った血と脳漿が辺りを真っ赤に染めた。息ができない。何故だ、それでもなお、自分は銃を手に取った。
ーカチ。
弾が、無い。何度も、何度も何度も。その事実を理解したくなくて引き金を引く。だが、どうしたって現実は変わらない。自分は女を抱きしめた。直後、散弾が自分の背中に降ってきた。薄れゆく意識の中、自分は言う。
「愛してる」
これもまた、ある種の愛と平和のお話。
#愛と平和
明後日は、卒業式。なんというか、あまり実感が湧いてこないのが本音だ。
「昼寝でもするかぁ」
今日は公立受験組の入試本番。私立専願の私は短縮授業でお昼に下校した。現在時刻、14時。眠い。
気付くとそこは夢の中で、修学旅行に来ているらしい。
「うわ、なんか俺泣きそう。」
この男子は確か卒業式で隣に座る三橋だ。なんで泣きそうなのかと聞くと、
「だって、また修学旅行に来れたから。このクラスで」
そういえば、三橋はいつもまた修学旅行に行きたいと教室で嘆いていて、言い過ぎてクラスのみんなに笑われていたんだっけ。なんだかせっかくの修学旅行なんだから笑って欲しくて、泣くなよと笑いながら背中をさすってあげた。
夢の中で、今はお世話になった宿のみなさんにお礼を言うらしく、会議室のような場所で生徒代表が、全員に立ってお礼を言うように声をかけていた。
「ありがとうございました」
そこでハッとした。今更ながら自覚する。そうか、こうやってみんなと声を合わせるのも、明後日が最後なんだ。先生たちにお礼を言えるのも、クラスメイトに当たり前のように毎日会えるのも、登下校の道を歩くのも、中学の制服を着るのも。
そこに気づいたとこで夢から覚めた。無自覚に、目の端から涙がこぼれた。
「ただいまー」
お母さんが帰ってきた。現在時刻、17時30分。昼寝にしては長いこと夢を見ていたみたいだ。
「おかえり、お母さん。あのね、さっきまで修学旅行の夢見てたの、それでね…」
何故だろう。なんだか今日は、無性に卒業式の話がしたい。
#過ぎ去った日々
「お金より、大事なもの…?」
「そう。なんだと思う?」
急にどうしたというのだろう。普段はどこか寂しげな先輩の目が、今は妙な真剣味を帯びている。
「愛とか時間とか友達とか家族とか、ですかね」
いつもと違う先輩の雰囲気に気圧されて、在り来りな言葉が空気を振動させる。
「確かに。大事だね。」
そう言った先輩の目は、いつもの寂しげな雰囲気に戻っていた。でも、だけど、それが、今はなんだか表しようのない焦燥感に駆られた。何かを、間違えたような。
「私ね、花火が好きなの」
「はなび?」
「そう。ドンって花開く瞬間も好きだけど、1番は散る瞬間。流れ星みたいで好きなんだ。…すぐ消えちゃうけど。
あのね、私は、私はね、お金よりも記憶が、大事だと思うんだ。」
あぁ、そうか。やっとわかった。先輩が、なんでいつも寂しそうにしてるのか。
「先輩、あの、僕も。先輩と過ごした記憶、大事にします」
忘れない。絶対に忘れない。先輩はきっと、どんなに美しい記憶もいつかは忘れて、忘れられて、消えてしまうから、いつも寂しそうにしてたんだ。
「…うん」
一言。そう言った先輩の目は、どこか嬉しそうで、流れ星のような煌めきが、見えた気がした。
#お金より大事なもの
真ん丸なお月様が、夜の街を照らし出す。
それはまるで君を照らすスポットライトのように。
ビルの屋上で空を見上げた君には、月は全てを見透かしている昼には見えない監視カメラみたいで、恐ろしく見えたのかな。だから、君の瞳は月に吸い込まれて動けなくて、ずっと見続けて、
君の死体は首が上を向いて、瞳は泣いていたのかな。
「ごめんね」
僕がそう言わなければ、泣きそう顔をした君に気付いて追いかけていれば。あぁ、''ごめんね。''そうやって人は過ちを繰り返すのだろう。
今日もまた、ベランダから月を見る。気付いた時には、僕の瞳は月から動けなくて、自分の下に地面がないことなんて知る由もなかった。
僕は今もまだ、月を見ている。
#月夜