シャノン

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2/14/2025, 9:05:49 AM

【そっと伝えたい】



この気持ちに気付いたのは、いつだっただろう。
この気持ちは、いつから抱いていたんだろう。

自分でも、そんなことすらわからないまま、
自覚した想いは日に日に募っていく。

(直接、伝えることができたら…)

そんなことができたら、どんなに良いか。
不器用で素直にもなれない自分が嫌になる。

今日も彼女は、俺の隣にいる。
俺の隣を歩いている。
すぐ近くにいるはずなのに、それなのに、
手も声も届かないくらい、遠くに感じる。

(…いつか伝えられるだろうか。この気持ちを)

(この想いを打ち明けられるまで、
 こいつは、隣にいてくれるのだろうか。)



―――好きだ



「ん?なに?」
「いや、何でもねーよ」


今はまだ、面と向かって打ち明けられそうにない。
だけど、届かなくてもいいから伝えたかった。
こんなの、“伝えた”とは言えないことなんか、
痛いほどわかっている。

…それでも、伝えたかったんだ。

2/10/2025, 9:44:00 AM

【君の背中】


君はいつだって、私の前を歩いている

前向きな君がいると、私も前向きになれる

厳しい君といると、私は今よりも成長できる

君に優しくされると、認めてもらえた気になる

君の広い背中は、いつだって温かい

君がいないと、私はダメなんだ

1/17/2025, 11:41:28 PM

【風のいたずら】



「譜割りするぞー!!」
「はーい」

楽譜の束を抱えながら、先輩が相変わらずな元気の良さで部屋に入る。

「今度の曲はなんですか?」
「これだ!」
「わー…マジですか…」

机に広げられた楽譜は、学生時代に大変苦労した覚えのある一曲だった。

「まさか、またこの曲をやることになるとは…」
「懐かしいなー。お前たちが入部してすぐの頃だったな、この曲をやったのは」

ここにいる全員が学生で、同じ部活動に所属していた頃、最初にぶち当たった壁がこの曲だった。
あの頃の私は、初めての楽器に戸惑い、難しいリズムにも戸惑って、入部早々に挫折しかけていた。
そんな私に、先輩方は根気よく教えてくださったし、同級だって何回も練習に付き合ってくれた。

「ほんとに懐かしいですね…。あの頃はお世話になりました」
「“あの頃”だけじゃないだろ」
「はぁ?」
「こらこら、喧嘩するな。パート決めるぞ」
「はい、すみません」

その時だった。
換気のために開け放っていた窓から風が入ってきて、卓上に広がる楽譜を吹き飛ばしてしまった。

「あーー!!」
「だから閉めようって言ったじゃん!」
「そん時は開けてから1分も経ってなかったろ!」
「まったく、お前たちは変わらないな」
「私が引退してから何があったんだ…?」
「化けの皮が剥がれたんですよ」
「ちょっと先輩!」
「なんてこと言うんですか!」

皆んなであれこれ言い合いながら、散らばった楽譜たちを拾い集める。
学生時代のあの頃に戻ったようで、あの頃よりも仲が深まっているこのメンバーで、また一緒に演奏できることが嬉しくてたまらない。
ちょっとした風のいたずらが、私たちに2回目の青春を運んでくれた。

1/12/2025, 1:16:07 PM

【あたたかいね】


「うぅ〜…さむ〜」
『部屋が暖まるまでの辛抱だ。もう少し頑張れ』

この地域は雪が特別多いわけではないが、
それでも夜は十分すぎるほどに冷える。

『ほら。ココアでいいんだろ?』
「うん、ありがとう」

ブランケットの隙間から、マグカップに手が伸びる。
大きな繭玉のような彼女の隣に腰を降ろす。

「はぁ〜…あま〜い」
『本当に甘いな、これ』
「あれ、コーヒーじゃないんだ」
『たまにはな』

隣に並んで、色違いのマグカップで、同じ飲み物を飲む。
甘く温かい空気が漂い、気も緩んできたころ、
左側に重みと温もりを感じた。

「…ねぇ」
『ん?』
「あったかいね」
『そうだな』

1/6/2025, 10:56:00 AM

【君と一緒に】


『あれ、お疲れ』
「おう、お疲れ。やっぱりお前もいたか」
『うん、いた』
「…いつまで驚いてんだよ」
『いや、だって…。なんで?』
「都合がついたんだよ」
『そっか…』
『…よかった』
「ん?なんだ?」
『いや?何も?』

また、君と一緒にいられる。
また、君と一緒に頑張れる。

『本当に、よかった』

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