【良いお年を】
「「「「お邪魔しまーす。」」」」
「おう、入れ入れ。」
「わぁ〜懐かしいな〜。」
「あ!これ、この間使ってたやつのセットですよね!すげ〜!」
「あれ?他の先輩方はまだ着いていないんですか?」
「あぁ、それがな…
一度来てはいるんだが、また出かけちまったよ。」
「あー…。」
「相変わらず自由な人たちだな。」
「まあでも、そろそろ戻ってくるだろう。
さ、セッティング手伝ってくれ。」
「「「「はい。」」」」
―――
「ただいまー!」
「みんな揃っているな。」
「あ、お帰りなさい!」
「お久しぶりです、先輩。」
「ああ、元気そうでなによりだ。」
「すみません、私までお招きいただいて…。」
「なに気にするな!多い方が楽しいだろ?」
「ありがとうございます。」
「そうだぞ、俺たちに遠慮はなしだ!」
「あのなぁ…ここは俺の家だってこと、忘れんなよ?」
「ちゃんとわかってますよ。」
「ああ、みんな承知の上だ。気にするな。」
「先輩まで…。」
―――
「あれ、もうこんな時間だ。」
「ん?あぁ、本当だ。」
「あっという間だったな。」
「じゃあ、俺はそろそろ…。」
「あぁちょっと待て。
…これ!お前たちに早めの福袋だ!」
「え?」
「俺たちに?」
「明日も仕事の2人に、私たちで用意したのだ。」
「「ありがとうございます!」」
「明日開けようかな。」
「な、福袋だもんな。」
「もったいなくて開けれない、とか言うんじゃないぞ。」
「ちゃんと開けます〜!」
「おい揉めるなよ…。行くぞ。」
「気を付けてね〜!」
「仕事頑張れよ!」
「はい、ありがとうございます!」
―良いお年を!
【1年間を振り返る】
この1年は振り返るまでもなく、
充実していたとは言えない。
仕事どころか、プライベートもボロボロで、
このままダメになってしまうんじゃないかと思っていた。
それでも、生きてさえいれば
何かしらの転機に巡り合えるようで、
あるクラブ活動を始めてから、私は活力を取り戻した。
この活動を通して、偶然アナタを知った。
一方的にではあるけれど、アナタを知って、
私の心に、彩りが戻ってきた。
アナタに憧れて、もっと成長したいと
前向きになれた。
まだまだアナタには及ばないけれど、
少しでも近づけていたらいいなと思う。
今年、アナタと出会えて、本当に良かった。
直接伝えることはできないけれど、この世に生まれてくれて、
ありがとう。
【イブの夜】
『…そういえば、今日、イブだね。』
「は?…あぁ、そういやそうだな。」
『…それだけ?』
「なんだよ。どっか行きたいのか?」
『いや?特に何もないよ。』
「何なんだよ。」
『まぁいいじゃん。もうちょっとゆっくりしてこ。』
「…あぁ。」
絶対に教えてなんかやらない。
今日くらい、もっと一緒に過ごしたいだなんて、
絶対に言えない。
―――
『…あぁ、そういうことか。』
「ん?何が? 』
『お前、わかりにくいんだよ。』
「だから、何が?」
『ふん、教えてなんかやらねーよ。』
今日くらい、まだ一緒にいたい。
そう思われていると、期待してしまう。
俺も、同じ気持ちだから。
【寂しさ】
彼が練習に参加できなくなってから、
何日が経ったのだろう。
まだ1週間も経ってはいないはずなのに、
もっと長い間会えていない気がしてくる。
彼がいなくなっただけで、ここも変わってしまった。
厳しい彼のおかげで守られていた規律も、
今やあってないようなものになってしまった。
私がしっかりしなければと思っても、
やる事なす事空回りしてばかり。全く上手くいかない。
(早く、戻って来て欲しい…。)
毎日のように、そう思う。
彼がいないと、何も上手くいかないから。
(本当にそれだけ?)
違う。
本当はわかっている。
素直には認められないけれど、自覚している。
(…寂しい。)
そう。本当は、寂しいだけなんだ。
寂しくて、彼のことばかり考えてしまうから、
周りも見えなくなって、正しい判断もできない。
だから、どうか…。
(早く帰って来て。)
【冬は一緒に】
『お疲れ様です。』
「お疲れ〜。今日もバイト?」
『いえ、今日は真っすぐ帰ります。』
「そっか。じゃあ、途中まで一緒に帰ろう。」
『はい!』
先輩と歩く帰り道。
吹き付ける風は、とても冷たい。
「テストはどうだった?順調?」
『あー、まぁ…ぼちぼちっすね。先輩は?』
「んー。私は…ちょっとまずいかも。」
『他の先輩方と違って、部活一筋でしたもんね。』
3年生の先輩のほとんどは、部活動よりも受験勉強に熱心だった。
そりゃあ、学生の本分は学業なんだから、
一生懸命に勉強するのは当たり前なんだけど…。
それにしても、部活が蔑ろにされている気がする。
2年生の先輩から聞いた話だと、去年までの3年生の先輩方は、
夏期講習と大会前の練習を両立させていたらしい。
今の3年生の先輩は、部活動よりも自分の利益の方が大事らしい。
全員がそうってわけではないけれど。
「まぁ…私はいいんだよ。AOで早く受験終わってるし。」
『そんなこと言って〜。卒業できなかったらどうすんすか。』
「いや、卒業はできる!…はず、さすがに。」
『ほんとっすか〜?』
「大丈夫だって!」
話しているうちに、先輩との別れ道に着いた。
いつの間にか、雪が降り始めていた。
『そんじゃ先輩、また明日!』
「うん、気を付けてね。」
『はーい!』
外がどんなに寒くても、先輩がいれば大丈夫。
卒業するまでもう少し、一緒の時間を過ごしたい。