美味しそうに頬張る彼女の姿を見ていると、微笑ましい気持ちになる。口元のソースを拭き取るついでに口付けてみれば、彼女はあっという間に頬を染めた。
迷いの多い人生だが、彼女を守りたいという気持ちは確かにある。
守るための剣
「何もいらない」
桜の雨が降る。
払うこともせずただ歩き続ければ、体中桜まみれになっていた。
「桜染めですか?」
「いや、面倒なだけ」
「そうでしたか」
適当に腰掛ければ、蜻蛉切が手を止め隣に来た。
結うには短く、梳くにも半端な長さだが、彼には関係ないらしい。
「髪も綺麗だ……黒に薄紅がよく映えますな」
「そう?」
「しかし、掃除するのも大変ですから、ここで梳いておきましょう」
櫛を片手に楽しそうにしている。彼が私に危害を加えることはないから、好きにさせていた。
絡まることもなく通り抜ける感覚。服についた分も落としてもらった。
「主、終わりました」
「ありがと」
いつもの武人らしい顔つきとは違い、穏やかな顔をしていた。
「……じっとしてて」
もみあげに紛れ込んだ花びらを摘む。
突然のことに彼の頬は熱に染まっていた。
目を合わせまいと必死に取り繕う姿が珍しくて、口角が上がった。
「蜻蛉切、大丈夫?」
「は、はい……まさか、主から触れられるとは思わず」
触れられた部分が今更になって熱くなる。
暦の上では春は終わるというが、ここだけは始まる予感がする。
「桜散る」
パチパチと薪の燃える音に、足音が混じる。
ヘラグは読んでいた本に栞を挟んで顔を上げた。
盛んな湯気と、甘い香りに目を細める。
「ありがとう」
ベスタから差し出されたホットミルクを受け取る。
はちみつの優しい甘みは、行き詰まった思考をゆっくりとほぐしていく。
「満足していただけて良かったです」
このささやかな幸せはいつまで続くのだろうか。
それはわからない。けれども、少しでも長く続いてほしいから、ヘラグは今日も戦争と向き合う。
「夢見る心」4/17