桜の雨が降る。
払うこともせずただ歩き続ければ、体中桜まみれになっていた。
「桜染めですか?」
「いや、面倒なだけ」
「そうでしたか」
適当に腰掛ければ、蜻蛉切が手を止め隣に来た。
結うには短く、梳くにも半端な長さだが、彼には関係ないらしい。
「髪も綺麗だ……黒に薄紅がよく映えますな」
「そう?」
「しかし、掃除するのも大変ですから、ここで梳いておきましょう」
櫛を片手に楽しそうにしている。彼が私に危害を加えることはないから、好きにさせていた。
絡まることもなく通り抜ける感覚。服についた分も落としてもらった。
「主、終わりました」
「ありがと」
いつもの武人らしい顔つきとは違い、穏やかな顔をしていた。
「……じっとしてて」
もみあげに紛れ込んだ花びらを摘む。
突然のことに彼の頬は熱に染まっていた。
目を合わせまいと必死に取り繕う姿が珍しくて、口角が上がった。
「蜻蛉切、大丈夫?」
「は、はい……まさか、主から触れられるとは思わず」
触れられた部分が今更になって熱くなる。
暦の上では春は終わるというが、ここだけは始まる予感がする。
「桜散る」
4/17/2024, 11:35:58 AM