「踊りませんか?」
放課後の委員会が長引き、
急いで帰ろうと廊下を歩いていると
その光景が目に止まってしまった
空き教室で風になびくカーテンと一緒に
フワフワとスカートを揺らしながら踊る少女
とても綺麗で見惚れてしまった
しばらく眺めていると、目が合ってしまった
急いで目線を逸らし、帰ろうとしたその時
「待って!」
少女に呼び止められる
近づいてきて、手を握ってきた
「あの、私の踊りみてましたよね?」
「私と踊りませんか?」
断ろうと思ったが、強く握られているため断れず
先程少女が踊っていた空き教室に入った
「左手で私の右手を握って、右手は私の背中」
言われるがままに、手を握り少女の背中に手をまわす
「じゃあ、いくよ」
少女がそう言うと、フワフワとまわりはじめた
彼女と一体になって、風になびくカーテンのように踊る
彼女の顔をみる
とても綺麗で幸せそうな笑顔をこちらに向けてくる
こっちも釣られて笑顔になる
下校時刻のチャイムが鳴った
ぱっと手を離す
下校時刻になるまで踊っていたのか…
少女が微笑みながら言う
「明日の同じ時間、また踊りませんか?」
それから毎日、同じ時間同じ場所で、
名前も学年も知らない少女と踊っている
「巡り会えたら」
あなたともう少し早く巡り会えたら
あなたの隣に歩いているのは私だったのに
なんで、私じゃないの?
そこは私が居るべき場所なの
その微笑みも
その大きな手も
その落ち着く声も
全部私に向けられるべきものなのに
今からでもアイツからあなたの隣を奪えるかな?
絶対奪ってやるんだから…
「奇跡をもう一度」
どうして…
どうしてこんなことに…
私が奇跡をもう一度願わなければ、
みんないなくならなかった
みんなで幸せに暮らす未来が待っていると思っていたのに
もう奇跡なんて信じない
みんなのところにいく前に
アイツを殺してやる
「ジャングルジム」
あの時は1番上に登れた者が王者だった
よく王者になっていたから
友人をこき使いまくっていた
嫌われていたかもしれないが
悔しかったら自分より先に
1番上に登ればいいのにと思っていた
あれから時は経ち
社会人になった
色んな人からこき使われる側になった
立場が変わったからわかる
とても辛い
自分はこんなにも酷いことをしていたのか
今さら謝ることも出来なければ
この状況から抜け出す術もない
帰りにあのジャングルジムのある公園に寄ってみた
まだあるんだ…
久しぶりに登ってみた
体が重くなったからか
なかなか上に登れない
これを軽々と登っていたんだな
頂上まで登って
座ってみる
懐かしい景色に涙がこぼれた
「声が聞こえる」
最近、声が聞こえる
励ましてくれたり
怒ってくれたり
時には子守唄を歌ってくれたり
どこかで聞いたことある声なんだけど
思い出せない…
ある日
押し入れを整理していたら
1本のビデオテープがみつかった
タイトルはわからない
まだ家にビデオデッキがあったので
再生してみることにした
画面にうつるのは
家族で遊園地に行った時の映像
懐かしいなぁ…
これ、お母さんが亡くなる前に行ったんだよね
お母さんの声、今まで忘れてた
思い出せてよかった…
あれ?
お母さんの声、最近聞こえる声と違う…
あの声、一体誰の声?
お母さんだと思っていたのに…