「お姉ちゃん!そのお菓子、1つだけちょーだい!!」
小学校1年年くらいの時の妹はすんごく可愛かった。ちょっと舌っ足らずな言葉で、両手を前に出して欲しいアピールして。中々あげないと、うるうるした瞳で見上げてきて。そんな姿に愛おしさを感じて、自分が一番大好きなお菓子だったけど、あげていた。まぁ、私の方がお姉さんだったしね。
でも。
「お姉ちゃん、お姉ちゃんが持っているものぜーんぶちょうだい?」
私の好きなバッグ、友達、恋人……その他諸々。
高校に入ってから、可愛いなんてちっとも思わなくなった。私の大切なものを奪い取るように持っていく。なかなか手に入らない時は、ワントーン高い声を出す。そして甘えるように私に言い寄っては、直接ターゲットに這い寄る。……なんでこんなやつの姉なんだろう。
〜1つだけ〜
大切なものは、人それぞれ。
ある人からもらったプレゼントとか、
愛するペットとか。
自分の命とか、
懸命に働いて稼いだお金とか。
たくさんの理由があって、それが大切になっている。
だからそれを、馬鹿にしたり貶したりするのは良くないと思うなぁ。
そういう方にも、何かしら奥に眠っていると思うから。
〜大切なもの〜
「お前が、好きだ」
放課後、幼なじみの莉瑠に告白した。場所は体育館裏。告白するにはベタな場所だ。熱の篭った告白を受け、彼女はびっくりしたような、キョトンとしたような瞳で見つめてきた。
「ほん、とう?」
「あぁ」
なーんちゃって。今日はエイプリルフール。……まぁ確かに、莉瑠のことは好きだが。相手の気持ちが上手く汲み取れないせいで、気持ちを伝えるのに億劫になっている自分がいた。とても情けないと思っている。早いうちにネタバレしちゃおう。
「なーんちゃっ……」
「知ってる?エイプリルフールって、嘘ついてもいいの午前中までなんだよ。午後からは嘘のネタばらし」
「へっ」
変に裏返った声が出る。その事実を知った途端、一気に顔に熱が集まっていくのを感じた。それを見た幼なじみは大笑い。ゲラゲラと声を上げて、ひっきりなしに笑う。やがて収まったのか、俺の目を真っ直ぐに見据えて、言った。
「いいよ。私も、好きだから」
いつもは強気な彼女が見せる、恥じらいの姿に思わず胸が鳴った。嘘の告白は、本当になってしまったのだ。
〜エイプリルフール〜
「今日は、ありがとね」
放課後の屋上、あなたは私の方を見ないで呟く。校庭では、風に乗せられて巨大な桜の木がさわさわと揺れている。彼女はまた言葉を紡いだ。
「あなたが私を救ってくれなきゃ、自分は死んでたんだろうなって。どこにも居場所がなくて」
長い黒髪を揺らめかして、今度ははっきりとした声が聞こえてくる。私は何も言わないまま俯いた。あなたがいじめられていたのは、前から知っていたことなのに。
あの頃は枯葉だった。かなりの時間がかかってしまった。血が出そうなくらい強く、唇を噛み締める。ぽかぽかとした春の陽気なんか、ちっとも心地よくなかった。
「――だから、あなたには幸せになって欲しい。こんな私を救ってくれた、大切な人なんだから」
いつの間にか彼女は振り向いていた。その顔は微笑んでいる。頬を桜色に染めて、日光みたいに暖かく微笑んでいる。今伝えるべきなんだろうか。私の想いを。私だって、あなたは大切な人だ。友人とか、親友とか、そんなんじゃない。
「幸せ……、じゃあ」
私と、付き合ってください。恋人として、ずっとあなたのそばにいたい。それが、私にとっての幸せだから。
素直に伝えた、伝えてしまった。彼女はだんだんと林檎色に染まる。瞳がキラキラと輝いているように見えたのは、多分、私が勝手にフィルターをかけてしまったからだろう。前に差し伸べた手はするりとかわされた。落胆したのは一瞬。私は彼女からギュッと抱きしめられた。「いいよ。私も」って、耳元で聞こえた時は、どんなことにも代え難い幸せがそこにはあった。
〜幸せに〜
何気ないふりをして、一番頑張っているのはあなただ。
何気ないふりをして、一番耐えているのはあなただ。
今日も、どこから湧き出てるか分からない不安に押し潰されそうになる。
呼吸しているだけで偉い、
生きているだけで偉い、
そう誰かに慰めてもらいたい。
〜何気ないふり〜