過ぎ去った日々なんて、俺は振り返りはしない。
思い返したところでどうなる?
『過去』という名の殻に閉じこもって、
それに満足して、
「もういいや」
「これくらいでいい」
ってなるよりは、
前を向いて歩いた方が、
俺は得すると思うけどな。
〜過ぎ去った日々〜
お金より大事なもの……?
そんなもの、この私にあるわけないでしょう!
衣類は沢山あるわ。
食べ物だって別に困っていないし、
住む所も豪邸ですしね。
生活する分には困ってないんですもの。
それに……この世の中は、お金が全てでしょう?
金がなきゃ、何にもできない。
だから十分なお金が大事になってくる。
幸せに暮らす方法なんて、私にはそれくらいしか考えられないわ。
……え?愛ですって……?
そんなもの、もう、とうの昔に捨てたわよ。
――いや、消えてなくなってしまったのよ。
散ってしまったのよ。
〜お金より大事なもの〜
「今日は月が綺麗だね」
「あぁ、そうだな」
今日は満月の日。なんにも欠けていない、まん丸の月。空にはいくつもの星が瞬いている。そんな中、僕達はベランダに出て、ぼんやりと見上げていた。数文字の会話をして、静かな雰囲気になった時。ふと、彼の方を見た。彼のアメジストのような瞳は、光を受け、艶やかに輝いて見えた。希望に満ち溢れている目、と言えばいいのか。そんな様子を見て、無意識のうちに、口からこぼれる。
「君も、すごく綺麗だよ」
「なっ……!?おい、それはどういう意味――」
「こういうことだよ」
真っ赤になって僕を見つめている恋人の顎を軽く持ち上げる。そしてそのまま唇を重ね合わせた。
「お、おい……!急に……!!」
「あまりにも君が美しかったからさ」
なんて微笑んで言うと、彼はぷいっとそっぽを向いた。だが、今度は耳まで真っ赤に染まりきっている。僕はそれを見て、つい笑ってしまった。可愛いなぁ。だが、それとは対に、ある不安も過ぎる。
「……ねぇ、君は急にどこか遠いところに行かないよね。僕の手の届かないような、ところ」
そう言って、あの月に手を伸ばす。あの月だって、ずっと満ち足りている訳では無い。いつかは、いや、時間が経つにつれて、どんどん欠けていく。この関係もずっと続くかは――
「お前は急に何を言い出すんだ」
彼の声に、僕ははっと我に返る。手すりを掴んでいる僕の手に、そっと彼の手が添えられている。
「行くわけないだろう、そんなところ……だいたい、お前は俺をなんだと思ってるんだ。俺はここにいたくて、いる。お前の近くにな」
「……本当?」
「あぁ。本当だ」
優しく慰めるような声に、僕は思わず抱きついていた。彼の、愛おしい恋人の存在を確かめるように。強く、強く。そんな彼は、何も言わずに、ただ僕の背中をさすり続けてくれた。
〜月夜〜
「僕達、固い絆で結ばれてるもんね!」
「あぁ!!」
なんて言って、どんなピンチも乗り越えてきた。お互い、助け合って頑張ってきた。そう、固い絆があるから。
だけど、いつの間にか――
「僕達の絆って、こんなもんだったんだ」
「……あぁ」
糸がもつれる。ぐちゃぐちゃに絡まる。人生で初めての大喧嘩。こんなに酷い経験、初めてだ。今までなら、大丈夫だったのに。
また、もう一度真っ直ぐな絆に戻って欲しい……
〜絆〜
たまには、息抜きをしてみてもいいんじゃない?
ほら、あなたっていっつも頑張ってるじゃない。
根気詰めてさ。
だから、少しくらい休憩とかどうかなぁーって思って。
そうでもしないと、いつかは体壊しちゃうよ?
あなたは私にとって大切な存在なんだから。
先にパタッていかれても困っちゃうよ。
だからさ、たまには息抜きしようよ。
私と一緒にさ。
ちょっとくらい、自分のペースで、緩く過ごしてみよう?
〜たまには〜