「今日は月が綺麗だね」
「あぁ、そうだな」
今日は満月の日。なんにも欠けていない、まん丸の月。空にはいくつもの星が瞬いている。そんな中、僕達はベランダに出て、ぼんやりと見上げていた。数文字の会話をして、静かな雰囲気になった時。ふと、彼の方を見た。彼のアメジストのような瞳は、光を受け、艶やかに輝いて見えた。希望に満ち溢れている目、と言えばいいのか。そんな様子を見て、無意識のうちに、口からこぼれる。
「君も、すごく綺麗だよ」
「なっ……!?おい、それはどういう意味――」
「こういうことだよ」
真っ赤になって僕を見つめている恋人の顎を軽く持ち上げる。そしてそのまま唇を重ね合わせた。
「お、おい……!急に……!!」
「あまりにも君が美しかったからさ」
なんて微笑んで言うと、彼はぷいっとそっぽを向いた。だが、今度は耳まで真っ赤に染まりきっている。僕はそれを見て、つい笑ってしまった。可愛いなぁ。だが、それとは対に、ある不安も過ぎる。
「……ねぇ、君は急にどこか遠いところに行かないよね。僕の手の届かないような、ところ」
そう言って、あの月に手を伸ばす。あの月だって、ずっと満ち足りている訳では無い。いつかは、いや、時間が経つにつれて、どんどん欠けていく。この関係もずっと続くかは――
「お前は急に何を言い出すんだ」
彼の声に、僕ははっと我に返る。手すりを掴んでいる僕の手に、そっと彼の手が添えられている。
「行くわけないだろう、そんなところ……だいたい、お前は俺をなんだと思ってるんだ。俺はここにいたくて、いる。お前の近くにな」
「……本当?」
「あぁ。本当だ」
優しく慰めるような声に、僕は思わず抱きついていた。彼の、愛おしい恋人の存在を確かめるように。強く、強く。そんな彼は、何も言わずに、ただ僕の背中をさすり続けてくれた。
〜月夜〜
3/7/2023, 3:17:27 PM