おばあちゃんの家。
古くて畳の独特な匂いがする部屋。
お人形さんが段々に並んで、みんな同じような顔をしている。
その日だけは私も着物を着て、
家族みんなに見せる。
「可愛いね」って言ってもらえるのが、大好きだった。
それから、おいしいひなあられとかちらし寿司とかを食べる。
そんな至福のひとときも大好きだったなぁ。
〜ひなまつり〜
「あなただけが、最後の、たった一つの希望なの」
そう言って、ご主人様はボクを抱き抱える。そして、頭を優しく撫でてくれた。だけど、その手は弱々しかった。
「ミー……」
「あら……慰めてくれてるの?ありがとうね、クロ」
また、ボクの頭を撫でてくれた。だけど、無理やり笑顔を作っていることくらい分かるよ。ボクは、何度人間になりたいと思ったことか。人間になることができるのなら、ご主人様を支えることが出来るのに。もっと役に立てるのに。でも、ボクは所詮ネコ。唯一のできることは、ご主人様を癒すこと。ただそれだけだった。
「ミャー……」
そっとご主人様の頬に肉球を添える。どこか冷たいような気がした。すると、ご主人様はボクの手に、自分の手を重ねてきた。
「クロ……私、もっと生きたいのに……っ」
そう小さな声で呟くと、ボクの肉球が濡れるのを感じた。
――涙だ。
ボクは優しくご主人様の頬を舐める。ご主人様の手が震えている。大丈夫だよ、ボクがいるから。そう言いたかった。そんな声もかけてあげられなくて、ボクも悲しくなってくる。
「ごめんね、クロ。涙、拭いてくれてありがとう」
なんて、そんなか弱い声で感謝を伝えられても、素直に喜べないよ……
なんて、不安げに見つめながら、ボクはそっとご主人様の胸に寄り添った。少しでも安心できるように。そして、また前のような、輝かしい笑顔をもう一度見せて欲しいと、願いながら。
〜たった1つの希望〜
私だけをただひたすらに愛して欲しい。
どんな時もずっとそばにいてくれる存在が欲しい。
そんな欲望が、常に私の胸で渦巻いている。
他にももっと沢山あるけど、
あの二つが強いかな。
〜欲望〜
自分のことを誰も知らない、遠くの街へ行ってみたい。
そしたら僕は……
弱虫で、泣き虫で、
みんなからずっとからかわれて。
もう、そんな自分は嫌なんだ。
もっと強くなりたいんだ。
ちょっとやそっとじゃ挫けないように。
だから僕は、遠くの街へ行ってみたい。
ダメな自分を変えたいから。
〜遠くの街へ〜
あいしている。
だいすき。
いっしょうそばにいたい。
わたしからはなれないで。
わたしだけをみてほしい。
……なんて、たくさんワガママ言って甘えたい。
でも、そんなこと、現実では上手くいかないから、
妄想働かせて何とかしてるんだ。
いっつも暗い顔して、振り向いてもらうんだ。
〜現実逃避〜