頑張って生きる一般人さん。

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「あなただけが、最後の、たった一つの希望なの」

 そう言って、ご主人様はボクを抱き抱える。そして、頭を優しく撫でてくれた。だけど、その手は弱々しかった。

「ミー……」
「あら……慰めてくれてるの?ありがとうね、クロ」

 また、ボクの頭を撫でてくれた。だけど、無理やり笑顔を作っていることくらい分かるよ。ボクは、何度人間になりたいと思ったことか。人間になることができるのなら、ご主人様を支えることが出来るのに。もっと役に立てるのに。でも、ボクは所詮ネコ。唯一のできることは、ご主人様を癒すこと。ただそれだけだった。

「ミャー……」

 そっとご主人様の頬に肉球を添える。どこか冷たいような気がした。すると、ご主人様はボクの手に、自分の手を重ねてきた。

「クロ……私、もっと生きたいのに……っ」

 そう小さな声で呟くと、ボクの肉球が濡れるのを感じた。
――涙だ。
 ボクは優しくご主人様の頬を舐める。ご主人様の手が震えている。大丈夫だよ、ボクがいるから。そう言いたかった。そんな声もかけてあげられなくて、ボクも悲しくなってくる。

「ごめんね、クロ。涙、拭いてくれてありがとう」

 なんて、そんなか弱い声で感謝を伝えられても、素直に喜べないよ……
 なんて、不安げに見つめながら、ボクはそっとご主人様の胸に寄り添った。少しでも安心できるように。そして、また前のような、輝かしい笑顔をもう一度見せて欲しいと、願いながら。

〜たった1つの希望〜

3/2/2023, 3:14:07 PM