ねぇ、そこのあなた、記憶を消したくはない?
……何とぼけた顔してるのよ、そこのあなたよ、
あーなーた。
え、なんでそんなこと聞くかって?
あなた、非常に疲れた顔をしているからよ。
それも、人間関係で。
私なら、そんなあなたの悩み、解決することが出来るわ。
……え、嘘っぽいって?
まぁ、確かに急にそんなこと言われたら信じないのも当然よね。
じゃあ、名刺だけ渡しておくわ。
辛くなったら、苦しくなったら、リセットしたくなったら、またこの路地裏へおいで。
いつでも待っているから。
ちなみに、私が消せる記憶はただ一つだから。
あれもこれも欲張らないようにね。
〜0からの〜
同情なんていらない。
一人になろうが。
他の人の後を追って歩こうが。
空気扱いされようが。
自分はそんな人間なんだ。
……だから、そんな目で見ないで欲しい。
自分の悩みは自分で抱えて、どんどんどんどん重くしていく方がいい。
自分だけのことだって、孤独になって、寂しくもなるけど、同時に優越感に浸れる。
自分でも何言ってるのか分からなくなってきたわ。
まぁとりあえず。
――一番苦しんでいるのは、自分なんだよってことは分かって欲しい。
〜同情〜
私だって、昔までは綺麗で鮮やかな新緑の葉っぱだったのよ?
もうたっくさんのお友達が周りにいたんだから。
あの頃は、毎日がキラキラ輝いていた。
お友達と色んなお喋りをしたり、この公園で遊んでいる子どもたちを見たりするのが、とても楽しかった。見てるこっちが、パワーもらっちゃうくらい。
……でも、今となってはもう誰もいない。
遊具もボロボロに錆びてしまった。
それに、大好きなお友達もたっくさん減っちゃったわ。
風に乗って、色んな場所に飛ばされてしまった。
私自身も、歳をとってしまった。
緑色の葉っぱから、ガサガサ肌の乾燥した茶色い葉っぱに。
あっ。
突然、強い風が吹いてきて、体が宙に浮いた。
お友達がだんだん遠くに離れていく。
突然の別れに手も振れない。
私は今、どこに飛ばされてしまうの?
そんな不安で、胸がいっぱいになった。
〜枯葉〜
ばいばい、今日の弱かったあたし。
明日は強くなってるといいな。
今日にさよなら。
また明日。
〜今日にさよなら〜
小学校の時、こんな授業があった。
「――はい、じゃあ今日は『みんなのお気に入りのもの』について、紹介してもらいまーす。グループになって、話してください」
……お気に入りのもの、これでいいのかなぁ。
私の手には、ある一通の手紙が握られていた。そう、それは自分の好きな人からもらった、初めての手紙だ。内容は、『ミカちゃん、またいっしょにあそぼーね!』というもの。保育所の時にもらった。私がケガをした時、いじめられてた時、いろんな時に助けてもらった。かっこいいヒーローのような存在。
……あ、私の番だ……
椅子から立ち上がり、深呼吸をする。ちらりと他のグループを見回してみると、なんと、彼も一緒のタイミングで立っていた。彼もなにか、小さなものを握っている。
すると、偶然にも話すタイミングまで被った。
「私のお気に入りのものは、この手紙です」
「オレのお気に入りのものは、この手紙です!」
……えっ?今、手紙って。
私は発表中もその事が気になって、仕方なかった。誰からの手紙なんだろう……
「――それで、あの時の手紙って、結局誰のものだったの?」
「はぁ!?なんで今さら言わなきゃいけねぇんだよ!」
「いーじゃんいーじゃん、ずっと気になってたんだよ?」
高校になった今、彼からあの時の真相を問いつめている放課後。すると、恥ずかしそうに視線を逸らし、頬をかいた。
「……お前からのだよ。ミカ」
「……!」
思わず赤面してしまう。すると、「なんでお前が真っ赤になるんだ!!」って、怒られちゃった。でも、すんごく嬉しい。もう、飛び跳ねたくなるくらいには。
「ねぇ、これからも私のヒーローになってくれる?そばにいて、守ってくれる?」
「あったりめーだろ。助けてやるよ。ほら、帰んぞ」
そう言って、彼は手を差し伸べてくる。私は、はにかんでその手を握った。
〜お気に入り〜