小学校の時、こんな授業があった。
「――はい、じゃあ今日は『みんなのお気に入りのもの』について、紹介してもらいまーす。グループになって、話してください」
……お気に入りのもの、これでいいのかなぁ。
私の手には、ある一通の手紙が握られていた。そう、それは自分の好きな人からもらった、初めての手紙だ。内容は、『ミカちゃん、またいっしょにあそぼーね!』というもの。保育所の時にもらった。私がケガをした時、いじめられてた時、いろんな時に助けてもらった。かっこいいヒーローのような存在。
……あ、私の番だ……
椅子から立ち上がり、深呼吸をする。ちらりと他のグループを見回してみると、なんと、彼も一緒のタイミングで立っていた。彼もなにか、小さなものを握っている。
すると、偶然にも話すタイミングまで被った。
「私のお気に入りのものは、この手紙です」
「オレのお気に入りのものは、この手紙です!」
……えっ?今、手紙って。
私は発表中もその事が気になって、仕方なかった。誰からの手紙なんだろう……
「――それで、あの時の手紙って、結局誰のものだったの?」
「はぁ!?なんで今さら言わなきゃいけねぇんだよ!」
「いーじゃんいーじゃん、ずっと気になってたんだよ?」
高校になった今、彼からあの時の真相を問いつめている放課後。すると、恥ずかしそうに視線を逸らし、頬をかいた。
「……お前からのだよ。ミカ」
「……!」
思わず赤面してしまう。すると、「なんでお前が真っ赤になるんだ!!」って、怒られちゃった。でも、すんごく嬉しい。もう、飛び跳ねたくなるくらいには。
「ねぇ、これからも私のヒーローになってくれる?そばにいて、守ってくれる?」
「あったりめーだろ。助けてやるよ。ほら、帰んぞ」
そう言って、彼は手を差し伸べてくる。私は、はにかんでその手を握った。
〜お気に入り〜
誰よりも、上手く話せない。
誰よりも、上手く聞けない。
誰よりも、上手く書けない。
速く走れなきゃ、絵も上手に描けない。
……はぁ、どうして自分はマイナスにしか考えられないんだろう。
何か、何かプラスのことは……
――あ。
自分は、誰よりも無感情になるのが得意だ。
だから、何を言われても平気。
たとえ、蹴られようが殴られようが。
だから、そんな人を倒すことだって――
〜誰よりも〜
今日、私宛にこんな手紙が届いた。
『何事にも流されちゃダメ。ちゃんと、自分の意思を持って生活することを心がけてね。必ず、重大な選択をする時が来るから……』
というたったの三文。しかも、誰から来たのか分からない。差出人不明だ。というか、今の私の状態、見透かされてる……?怖すぎだ。
私は気味が悪いと感じ、ゴミ箱に捨てようとした。だが、
「……でも、すごく大事なことが書いてある気がする。一応取っておいた方がいいかな」
私はゴミ箱から離れ、自身の机へと向かう。そして、引き出しの中に、そっとしまった。
〜10年後の私から届いた手紙〜
私は真っ先にあの人達に渡した。
自身の手作りチョコを。
次元を超えて。
……いや実際は、
フィギュアとアクリルスタンドに向かって「あげる」って言ったんですけどね。
もちろんリアクションは返ってきませんよ。
ずっとこっちを見て微笑んでくれているだけです。
ですが、心で感じ取るんです、心で。
周りから見たら「わぁ……」って思うかもしれませんよね。
自分自身も初体験でしたよ、こんなの。
びっくり。
でも、それだけ、あなた方に強く惹かれているんです。
〜バレンタイン〜
自分は、まだ子どもで幼いのに、大人のあなたに恋をしてしまいました。
待っててください、すぐに大人になって、あなたに告白してみせます。
自分は大人になりました。無事、あの人とお付き合いすることができました。今日は初デート。
待ってて、今すぐ行くから。
自分は一児の母になりました。あら、もうこんな時間。
待っててね、今迎えに行くからね。
そして、あなたも。
自分はおばあちゃんになりました。子は今でも元気に育っています、頑張っています。ですが、あなたの様態はだんだん悪くなっていきます。
もう少し、もう少し待っててください……せめて、この子の晴れ姿を見るまでは、一緒に生きててください。
〜待ってて〜