チャイムが鳴り、椅子を引きずる音が教室内に響く。
やっと今日も憂鬱な学校が終わった。
掃除当番も本日お休みだ。特にこれといった用事も約束もない私は挨拶後すぐに学校を出た。
空を見上げると今すぐにでも降りだしそうな重たい雲に覆われている。
「折りたたみは…ちゃんと入ってる」
カバンの中身を確認し、いつも通り家とは真逆の道を早歩きで進んでいく。
しばらく進んでいくと左側に細い階段が見えてきた。急で長めなこの階段は体力少なめな私にとってキツく、登りきった頃息切れしているのがテンプレート化してきている。
1番上まで登りきると神社が見えてくる。もう来る人も少ないのだろう、実際今まで私達以外の訪問者を見たことがない。古びて緑で覆われているそこは私とあの子の秘密基地と化していた。
軽く手を合わせお辞儀をする。
「…お邪魔します」
屋根下に入り重たいカバンを下ろし周りを見渡す。あの子はまだ来ていないみたいだ。
「今日は来ない日かな」
気分屋なあの子は来ない日も少なくない。少し寂しい気持ちもあるが、カバンから昨日買ったばかり本を取り出し読み進めていく。
家でも学校でも本は読むけれど、やっぱりこの場所で読むのが1番心地いい。
しばらくするとポツポツと音がなりだした。と同時に、もうひとつカサカサという音が横から聞こえた。
本を閉じ、カサカサと音のなる方向に目を向ける。
「ミャー」
つぶらな瞳をもった真っ黒なあの子が葉っぱから顔をひょこんと出し、私の姿を見るやいなや私の右側にあの子もちょこんと座った。
「随分遅かったね。もう今日は会えないのかと思っていたよ」
「ミャー」
「またどこかお出かけしていたの?」
「ミャーミャー」
「ふふ。あ、そういえば今日ね…」
雨音の鳴り響くある森の中、楽しそうな少女の声と鳴き声がそこに聞こえた。
〖友達〗
心の中でそう呟いた。
聞こえるはずもなくすっと彼女は僕の前を通り過ぎていく。
「みんなわざわざありがとう!元気でね!」
いつもと同じ、セーラー服に季節に合わない黒色のカーディガンを羽織った女の子。
こちらに振り向いて太陽のような笑顔で手を振っている。もう電車が出発するまで時間はそうない。
「向こうでも元気でね」
「離れても連絡取り合おうね」
それぞれ彼女に別れを告げていく。そんな中でも僕は彼女に口をつけずにいた。
結局それから彼女と目が合うこともなく、電車の扉が閉まった。
扉が閉まっても尚、手を振り続けている。きっと見えなくなるまで振り続けるのだろう。
僕も周りのクラスメイト達に合わせて手を胸あたりで軽く手を振った。ふと彼女がこちらを見てばっちり目が合ってしまった。目が合っただけだ、だけなのに鼓動が少し早くなったのを感じた。
彼女は少し驚いたような顔をした、けれどすぐに微笑み返してくれた。ような気がする。
その後はすぐ視線を他の子にうつしあっという間に電車は発車してもう見えないところまで行ってしまった。
鼓動は収まらずむしろどんどん早くなっていくように感じた。
…結局最後の最後まで何も伝えられずに終わり、僕の初恋も呆気なく終わりを迎えた。
〖行かないで〗