田中ボルケーノ

Open App
9/1/2024, 3:15:52 PM

登山家は

そこに山があるから登ったのであって
そこに山がなければ登らずに済むのである

よってこのLINEは来てなかったことにする

そうすれば山は無かったことになり
危険を冒してまで山に登ろう、などという気持ちにならなくて済むのである、



山に登ったこともないクセに
謎の登山家目線で無茶な理屈をつけてLINEを無視することにした


完全に詰んでいる

完全に詰んでいると人は新たなルールを設けたくなる

藤井くんに全力で詰められた私は
王手を受けたこの土壇場から
全歩兵をト金にするべく
将棋のルールを歴史ごと変える手立てはないかと画策する


実は今しがた、彼女からLINEが来た


冒頭の文書だけ見るに

恐らくこのLINEをタップして開いたら

彼女とはさよならだ


私は今宵

目の前の山を消し飛ばし

将棋のルールを変えてみせる



           『開けないLINE』


8/31/2024, 11:17:24 AM

不完全な僕は

不格好な僕から声を掛けられる

完全な僕がお待ちだ、と


不透明な僕と不安定な僕に

案内された扉を開けると

不公平な僕と不自由な僕が何やら言い争いをしており

不用意な僕がまあまあ、と割って入る

どうやら不公平な僕が

完全な僕に不満の手紙を渡そうとしたら

不必要だ、と不自由な僕に止められたらしい

不条理を感じた不公平な僕は

なぜか不完全な僕を睨みつけ

不機嫌な表情を浮かべる

僕らは元々


あ、完全な僕らのはずだった

あ、完全な僕らのはずだった

あ、完全な僕らのはずだった


まるでoasisが湧き出た様な不協和音



            『不完全な僕』

8/31/2024, 9:10:43 AM

夜中に森で

香水の代わりに全身に樹液を塗りたくる

ライトアップされた私を見て

カブトムシとクワガタが集まってくる

おやおや喧嘩をはじめたよ

私の為に喧嘩はやめて、と呟く

まるでディスコのナイトフィーバー

黒光りするこのジャケットで

夜の街へ今、繰り出す


               『香水』

8/27/2024, 11:41:51 AM

これじゃまるで、、

これじゃまるで、ガチョウが白鳥に憧れてたみたいじゃないか、勘弁してくれよ


漂う夢を見ているよう


360度からフラッシュが焚かれる
スタジアムからは止まない拍手
怒号の歓声が轟音で鳴り響き
あっ、という間に白鳥は天高く翔び上が
って

それから、もう僕の手元には戻らなかった


悪気?

改めて悪気があったのか?と聞かれると

なかった

と、答える

率直な気持ち


確かに悪いことをした自覚は
あったのかもしれない

ただそこは補える様な気がしていた

誰よりも同じ時間を一緒に過ごし

誰よりも一番近くて


魔が差した?

そんなチンケな言葉じゃ語れないよ

僕も同じ様に飛び立つ準備をしていただけなんだから


感情というのは自分勝手で

その場所、その時で変化する

記憶を思い返す作業も

誰かの都合良く解釈されてしまう


でも、二人で過ごした時間は確かにあった


友情とか愛情とか裏切りとか

勝手な言葉で語るのは

止めてくれよ


夢の終わりに

スタジアムから白鳥が

翔び立った空を眺めている

じっと眺めて

そこからもう、動けなくなった


止めてくれよ


これじゃまるで、ガチョウが白鳥に憧れてたみたいじゃないか、



カリフォルニアに雨が降る



             『雨に佇む』

8/26/2024, 1:21:45 PM

ああ、そういえば
と思い出した

昔、書いてたな、日記なんか

長年住んだボロアパートを結婚を機に引っ越すことになった
荷物の整理をしているとコロンと転がってきたのである
表紙の柄も忘れていた

七年前か、パラパラとめくる

うおおお、懐かしい、
学生時代の思い出が滲み出る

気づけば片づけもそこそこに読みふけってしまっていた

そうだった、七年前といえばちょうど玲奈と出会った頃だ

そろそろ登場するはず
確か8月だった

大型で強い台風は予定していた合コンを狂わせた

当初、5対5で行うはずが遠方のメンツがキャンセルになり
2対2という少人数のご近所メンバーで行うことになる

馴染みの居酒屋も早めに閉めるとか言い出して
閉め出された僕たちは一番近い僕の家で飲み直すことになった

結局、それがきっかけで

あの時、もし台風が逸れていたら僕たちも逸れていたかもしれない

出会いの日まで読み進めようとした時、玲奈が声をかける

一平くん、こら、全然手が動いてないぞ、
ん?何か読んでるの?

え?な、なんでもないよ
そういえばさ、僕たちが出会った日に来た台風の名前覚えてる?

問いかけながら自分も思い出す

あー、確か
全然台風っぽくない名前だったよね

そうそう
お日様みたいな

あー、思い出した
せーの、で言おうか


せーの


サンサン!



            『私の日記帳』

Next