上手くいかなくたっていい
挑戦することが大事なんだ
僕たちは夢を売るのが仕事なんだから
社員には事あるごとに言って聞かせた
もちろん良い時もあった
これで事業が軌道に乗る、という感触があった
このままでいきましょう、との社員の声に
何言ってんだ、挑戦が足りない、お前らは夢を見ないのか、と押し切った
無理矢理高度を上げる
もう少し上げればジェット気流に乗って儲かる速度が三倍になる
それが僕の計算だった
ミシミシと音を立て始める
それでもなんとか耐えるだろう
あれ?なんかオカシイな、と計算式を見直した時にはもう遅かった
夢を乗せた機体は外圧に耐えきれず
一部が崩壊したと思った直後に連鎖的に弾け
原形が何だったのかわからないほど無様な姿を晒しながら
ゆっくり、ゆっくり、海へ堕ちる
残骸は藻屑と散った
アメリカには夢があるという
掴めば億万長者
しかも誰にでもチャンスがあるんだって
借金6億円
いや7億円だったかな、まあどっちでもいいか
僕はもうすぐ掴むのだから
色はカラフルな方が良い
ヘリウムをたくさん詰め込んで
大きく膨らむ僕の夢
記者を集めアメリカに渡ると高らかに宣言する
このまま一緒に過ごせればそれでいいじゃない、との家族の声を押し切って
彩りの風船は青い空によく映える
まるでファンタジーだ
重りを外し、行ってくるよ、と手を振った
高く高く舞い上がれ
風に乗ってあっと言う間にアメリカだ
全て計算通り、
今度こそ絶対に上手くいく
『上手くいかなくたっていい』
二人が討たれた、と聞かされた時は動揺した
悟られないよう
硬く唇を縛り、目をつり上げ、大したこと無いよ、と憮然とした表情で少し顎を引く
本当は胸の奥まで動悸し血の気が引いて
返事の仕草を返すのがやっとであった
でも最期まで諦めない
私は幼い頃からぶっきらぼうで
何かにつけて喧嘩をふっかけ制圧する
何でも一番になりたくて
弱い者は朽ちて知るべし、と強がっていた
いつか私が天下を取る、と高らかに主張する
周りには誰もいなくなっていた
でも、二人はいつも笑っていた
二人だけがわかってくれた
全くの脳天気が心地良かった
未来の将軍様
お前が天下を取ったら俺達を大臣にしてくれよな、右大臣と左大臣で
私達は野戦で名を挙げ
刃向かう敵をなぎ倒し
死線を越えて
名を挙げ
名を挙げ
死線を越えて
名を挙げ
名を挙げ
今夜、天下はもうこれ間近
手の内側まで転がってきた
だけど、最後で溢れ落ちた
城が焼ける
悲鳴が聞こえる
バチバチと音を立て赤く染まる部屋で
二人が討たれた、と聞かされた時は動揺した
本当の名前もまだ教えて貰ってないのに
喉が焦げる
刀を手に取る
黒煙が舞う
視界が燃える
蝶よ、花よ
視界が燃える
まだ諦めない
『蝶よ花よ』
ええっ?!
最初から決まってた?
えっ?なにそれ、どういうことですか?
あんなに我慢したんすよ、七年すよ七年
あんななんもないとこに七年も閉じ込められて
やっとこさ出てられて
よっしゃこっからが本番じゃい!
みとれよ俺の魂の叫び、生命の熱り、全集中で燃やしてやるぜ!!
つった直後に
網で採られて、カゴに入れられ、
近くでみるとマジでキモいとか、
夜に鳴くなようるさいな、とか言われて、結局飽きられて、なんかそのまま放置プレイでチーン的な
え、あれ、全部最初から決まってたんすか?
なんなんすか、マジで
え、なに?
次はウナギにするから、じゃあないんですよ
似たようなもんじゃないですか、ウナギも
今回、選択肢は少なかった中でこれ選んだのも
我慢して我慢して、解放されてからあの限られた1週間で自分の生命をどこまで高められるか、そこに込められた熱い想い的なのを感じたかったから選んだんすよ
限られた時間の中で最愛のパートナーと出会い
短いけれど灼熱に燃えたぎって添い遂げる的なの、意外といいかもな、つって
土の部分我慢したのに
マジでなんなんすか、最初から決まってたとか
え?なんすか?
わかった、次はナマコにする?
似たようなもんじゃねーか、なんでさっきからニョロニョロ系なんだよ、いい加減にしろ
『最初から決まっていた』
あちゃ~、やってもうたわ
呟いたのが聞こえたらしく少し離れたデスクから同僚がのぞき込む
どうしたんすか先輩
いやさ、最近、設定おかしくなってたからちょっとイジってたんだよ、
調整して少し下げとこうかなあ、とかってさ、
そしたら消すつもりなかったのにミスって消してもうたんだわ
これ戻せるんだっけ?
いや、確か無理っすね
デカ目のヤツですよね、デカいのは確か無理っすよ
だよな~、これどうしよっか
このままだと全部バラバラになっちゃうよな
あー、それ中心に周ってた感じすか
まあいいんじゃないすか?その辺飛ばすくらい、どうせどこにも当たんないっすよ
いやそれがさ、いるんよ
えっっ!?いるんすか?
そう、しかもめっちゃいるんよ
ええーっ!マジっすか
それやっちゃったすね先輩
まあでも、一瞬で消えたならまあまだ良かったというか、まだマシじゃないですか?
いや、違うんよ
周ってる方にいるんよ
ええっ!!周ってる方にいるんすか?
それちょっとヤバイっすね
どれくらいいるんですか?
確かね、知能系だけで70億くらいだったかなあ、、
70億!知能系70億はヤバイっしょ、さすがに
そうなんよ、結構ヤバイんよ
びっくりしたやろうね
そうっすね、急に消えたからびっくりしたでしょうね
これどうしよっか
どうしますかね、、
とりあえず代わりになんか置いといたらどうですか?
同じくらいの大きさのやつ
バラバラになったらもうお仕舞すよ
そうだな、さすがにそのままはちょっと申し訳ないよな
大きめのバナナ置いとくか
色も似てるし
そう、、すね
でも寒くないですかね
そうだな、寒いよなやっぱり
ん~、、温めたの置こうか?
あ、それいいっすね
温かいバナナ置いときましょ
消したのこの辺だったかな、、
お、やっぱあんまり違和感ないな
あ、周りだしたわ
あ、周りだしたっすね
良かったすね
多分気づかないすよ
は~、焦ったわ
『太陽』
思わず息をのんだ
想像していた何十倍もでかい
その装飾は誰の目にも美しく、力強く
幾千の人々により幾千万の時を経て、手厚く重厚に奉られ、敬われているのが一目で伝わった
怯んだ気持ちを悟られない様に独り言に混ぜ聞こえる様に呟く
ああ、意外とこんな感じか、
しかしデカいなこれ、全体が収まる様に撮れるかな
平然を装ったけど、膝が震えている
これはマジで絶対にヤバいヤツだ、
見ているみんなも察している
これは絶対に触っちゃダメなヤツだろ、て
だけどもう後には引き返せない
これだ、これを叩いたら絶対にバズる
千年の鐘の話を聞いた時、私は高揚した
千年に一度だけ叩く事が許される伝説の鐘
文献だと次に叩けるのは511年後らしい
前倒しで叩いてみた、ってタイトルで実況動画出したら絶対にバズるやろ
これで私もヒーローになれる、て
神々を装飾した巨大な黄金の鐘
槌を構える
警告が鳴る
千年に一度なら私は何人目だろう
警告が鳴る
世界に繋がっている、私がヒーローだ
警告が鳴る
思いっきり振りかぶって
警告が鳴る
警告が鳴る
『鐘の音』