あなたがいることが、当たり前すぎて何も気にしていなかったの
ご飯も適当
掃除も適当
隣にいても
甘えてきても
催促されても
たまに猫可愛がりして、気分次第で邪魔だと追い払って、あなたの気持ちなんて考えたことなかった
あんなに大好きだと言ってくれていたのに
毎日大好きだと言ってくれていたのに
受け取るだけ受け取って何も返していない私は、それが後々打ちのめされるほど後悔することだなんて本当に気がついていなかった
あの日、あなたがいなくなって、でも、あなたがくれたものはそれが普通で当たり前だったから、寂しかったけどまだ特別だったってわからなかった
気がついたのは、次の出会いがあって
隣に来てくれなくて
甘えてくれなくて
催促だけはいつもされて
ご飯も掃除も何も言わないけど雰囲気で完璧を求められて
猫撫で声で名を呼んで、機嫌を取っても
それでも
大好きって言ってくれない
大好きって思ってくれてるかもわからない
大好きだけど、少しも返してくれない
あぁダメだってわかってる
でも毎日比べてしまう
もう一度会いたい
もう一度抱きしめたい
何度も願う
もう一度
もう一度
私に愛をください
『もう一度奇跡を』
「早く起きなさい!」
二度寝した俺が悪い。
むしろ起こしてくれて助かった。
そんなことわかきりってるけど、言い方。
ムカつくやん。
時間に余裕がなくなった事にも更にムカつく。
ムスッとしたまま雑に支度を進めてると、追い打ちをかけるように言わなくていいことをこのタイミングでぶっ込んでくる。
「部屋、汚い!」
「片付けなさい!」
「全部、捨てるよ!」
トリプルコンボかよ。
もう俺のライフは朝からゼロよ。
テンションなんて上がりようがない。
こんな時でも用意されてる弁当を、適当にカバンに突っ込んで足早に玄関へと進む。
もう、一刻も早くこの場を離れた方がお互いの為。
踵を踏み潰しながら靴をつっかけ、ノブに手を掛け黙ってドアを開けた。
「いってきますくらい言えないの!?」
さすが母
オーバーキルをかましてくる
文句を言わないと気が済まないのか
黙ってることは出来ないのか
俺の機嫌が底を這うってわかってるのにわざわざ投げつけてくる、その一言。
言い返す代わりに、乱暴にドアをバタンッと閉めて大股で駅へと歩き出す。
きっと明日もこんな朝だと思ってた。
『きっと明日も』
時間を見ないで
最後の人差し指を離さないで
すがりつく子犬のような目をして
途切れそうな会話をまたくだらない話で繋いで
すぐに背を向けないで
またね、がいい
さよならは嫌
『別れ際』
白いTシャツのわずかな赤い汚れ
いつもはそんなの気付きもしないで洗濯してしまうのに、なぜだか手に取ってスッと匂いを嗅いだ
甘い匂い
きっかけはあれだったな
あれが引っかかって、ナビの足跡なんか見たけど消されてたし
ご飯のレシートは2人分だし
ついでにテーマパークのレシートもあったよね
私も子どもたちも行った事ないのにね
隠してるつもりなのか
隠すつもりもないのか
腹が立って
悔しくって
哀しくって
惨めで
無理やり笑って
やり直そうとして
笑顔が固まって
バカらしくなって
呆れて
呆れて
呆れて
諦めた
それからは、日々隠そうと色々取り繕う愉快なあなたを、なんか些細なことでもありましたか?と、毎日同じ顔で見過ごしてる
『些細なことでも』
あなたの優しい笑顔と背中に触れる温かい手のひらに押されて、小さな一歩を踏み出す事が出来た
照れ臭くて、嬉しくて、ニヤニヤする顔を見られたくなくて、あなたの近くにいる時はいつも下を向いていた
心にほんのりと何が灯っていくのが分かった
その火を消したくない
消えないものにしたい
どうにかしたいのに
どうすればいいのか
俯く私には何も見えない
『心の灯火』