やさか

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2/19/2024, 2:02:36 PM

 自分もいつか、この枝を離れていく。
 わたしたちはやがて、今の枝を失う。
 日差しの下で、風に乗ってさらりと。
 あるいは雨の雫の重みで、ほろりと。
 星の瞬きに押されるようにするりと。
 さよならの時を着飾って散っていく。
 どこへとも知れず、いつとも知れず。
 頬に感じるものだけを頼りに行こう。
 目を瞑っていても、きっと怖くない。


 #枯葉

2/18/2024, 1:02:11 PM

 昨日と今日と明日とをほんとうに隔てているのは、時計の針ではない。
 深夜、時計の上ではもう昨日だけど、この瞬間はまだ今日で。
 時計の上ではもう今日だけど、夜明けの先には、まだ明日が控えている。
 わたしたちはそんなふうに、真夜中の底で時間を曖昧にする。
 午前一時二十三分。今日からはみ出した今日。本当は明日だったはずの今。
 布団に入って目を閉じて、今日もまた、カギカッコつきの『今日』にさよならをする。
 わたしたちは毎日、瞼で日付を切り分けるのだから。


 #今日にさよなら

2/16/2024, 1:44:11 PM

 きっと誰よりも激しく君に恋をしていたのだけれど、それを愛だと呼ぶほど厚顔にはなれず、だからこの恋はそっと殺しておきます。
 きっと誰よりも狡猾に策を巡らせていたのだけれど、それを愛のためと言うほど嘘つきにはなれず、だからこの腕は静かに下ろしておきます。
 きっと誰よりも賢しらに諦め続けてきたのだけれど、それを愛してもらおうという気にはなれず、だから私はここで佇んでいます。


 #誰よりも

2/13/2024, 1:00:09 PM

 待っててね、と言われたのでもうしばらくここで待っているのだが、あいつはちっとも帰ってこず、何やらだんだんと騙されたような気になってきて、しかしながら、もうあんなやつのことは知らん、と言い切るにはまだ早いなと思い、そのまま結局ずいぶんと長いこと経ってから、もう帰ってこないだろうなあという諦めと、捨てられない愛着と、少しばかりの呪いとの狭間で、手紙を一通書くのである。いつ帰ってきても、わたしはまだ待っています。


 #待ってて

2/11/2024, 2:32:44 PM

 あなたを抱き寄せたぬくもりを覚えている。
 春風の匂いと、晴れた空の明るさ。
 少し濡れた足元の土の頼りなさ。
 遠くに聞こえた、タイトルも知らない歌の音色。
 胸の奥を叩く心臓の熱さと、吐息の震え。
 この場所で、あの日、二人で感じたなにもかも。
 わたしはまだここにいて、覚えている。
 あなたが、いつでも戻ってこられるように。


 #この場所で

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