昨日と今日と明日とをほんとうに隔てているのは、時計の針ではない。
深夜、時計の上ではもう昨日だけど、この瞬間はまだ今日で。
時計の上ではもう今日だけど、夜明けの先には、まだ明日が控えている。
わたしたちはそんなふうに、真夜中の底で時間を曖昧にする。
午前一時二十三分。今日からはみ出した今日。本当は明日だったはずの今。
布団に入って目を閉じて、今日もまた、カギカッコつきの『今日』にさよならをする。
わたしたちは毎日、瞼で日付を切り分けるのだから。
#今日にさよなら
きっと誰よりも激しく君に恋をしていたのだけれど、それを愛だと呼ぶほど厚顔にはなれず、だからこの恋はそっと殺しておきます。
きっと誰よりも狡猾に策を巡らせていたのだけれど、それを愛のためと言うほど嘘つきにはなれず、だからこの腕は静かに下ろしておきます。
きっと誰よりも賢しらに諦め続けてきたのだけれど、それを愛してもらおうという気にはなれず、だから私はここで佇んでいます。
#誰よりも
待っててね、と言われたのでもうしばらくここで待っているのだが、あいつはちっとも帰ってこず、何やらだんだんと騙されたような気になってきて、しかしながら、もうあんなやつのことは知らん、と言い切るにはまだ早いなと思い、そのまま結局ずいぶんと長いこと経ってから、もう帰ってこないだろうなあという諦めと、捨てられない愛着と、少しばかりの呪いとの狭間で、手紙を一通書くのである。いつ帰ってきても、わたしはまだ待っています。
#待ってて
あなたを抱き寄せたぬくもりを覚えている。
春風の匂いと、晴れた空の明るさ。
少し濡れた足元の土の頼りなさ。
遠くに聞こえた、タイトルも知らない歌の音色。
胸の奥を叩く心臓の熱さと、吐息の震え。
この場所で、あの日、二人で感じたなにもかも。
わたしはまだここにいて、覚えている。
あなたが、いつでも戻ってこられるように。
#この場所で
誰もがみんな、あなたを愛してくれたらいいのにな。
わたしのちっぽけな愛なんて必要なくなるくらいに。
わたしの手を離れて、遠く遠くまで行けるように。
優しさと慈しみに揺られて、穏やかに眠れるように。
ただ、忘れないでくれたらいい。
そのひとつめの愛が、わたしのものだったことを。
#誰もがみんな