それは傷だよ。
十年前の叶わなかった恋が人生の何より忘れられないなんていうのはね、綺麗な思い出なんかじゃなくて、傷痕なの。人生に後遺症が残ったってことなの。もう、元通りに治ったりはしないの。
あなたはその傷と生きていくんだ。
もう二度と会うことなんてないまま、十年前が百年前になったって、ずっと、一生。
そんなにも狂おしい恋をしたってことを、抱えて生きるんだ。
#特別な存在
わたしが本当に、きみを愛しているかどうかなんて。
交わした約束が本物かどうか、なんて。
わたしにキスしたって、わかるはず、ないでしょう。
嘘つきの魔女がわたしなら。
真実の愛がそこにないなら。
二人のキスで、呪いは解けやしないでしょう。
それなのに、どうして。
どうして、くちびるで確かめようとするの。
#バカみたい
二人でいるのは好きだった。
二人きりになるのは嫌だった。
重ならないわたしたちの、孤独と孤独を知っていた。
互いしかいない場所で、それが響き合う冷たい音。
触れ合うたびに凛と鳴る、一人と、一人。
一人ぼっちは寂しいけれど、二人ぼっちは悲しいね。
同じにはなれないことを確かめ合うのは、切ないね。
#二人ぼっち
きちんと殺しておこう。
景色のいい場所に埋めて、周りには花を植えよう。
白い綺麗な石に、思い出の言葉を刻んでおこう。
そうして目を覚まそう。
この恋はおしまい。
あなたに見ていた夢は、おしまい。
#夢が醒める前に
まだ訪れぬ夢の中。
まだ瞼の裏の闇でしかない場所に、そっと隠した。
それがどんなものだか、あなたには教えない。
これから眠るひと時に、わたしの手のひらだけがそれを撫でる。やわらかなかたちと、淡い温度を。
うつつには触れられないけれど、わたしの中で、真珠の色に光る宝物。
あなたには教えない。
わたしの胸を小さく叩く、あなたの視線のやさしさなんて。
#胸が高鳴る